氏 名( 本籍 ) 倉山 文男(埼玉県)
学 位 の 種 類博 士( 工 学 )
学 位 記 番 号 甲第36号
学位授与の日付 平成17年3月19日
学位授与の条件 学位規則第4条第1項該当
創価大学大学院学則第17条第2項該当
創価大学学位規則第3条の3第1項該当
論 文 題 目 光機能性粒子(TiO2)と生体触媒(酵素)を複合した人工光合成システムの構築
論文審査機関工学研究科委員会
論文審査委員 主査委員 工学博士 山本 英夫
委  員 農学博士 前田 英勝
委  員 理学博士 松山 達

[論文審査結果の要旨]

 光エネルギーを利用した常温で稼働するクリーンな化学工業プロセスを開発するために、様々な光触媒に関する研究が行われている。その中でも二酸化チタン(TiO2)に代表される半導体光触媒は、光エネルギーを吸収して生じた電子と正孔により様々な反応を進行させることから、有機合成の光触媒として検討されている。しかしながらこの場合、生成物の反応選択性に乏しいという問題点がある。そこで半導体光触媒に酵素を組み合わせることで、その選択性の向上が試みられている。しかしながら、酵素は一般に光に弱く、長時間の光照射によってその活性が失われてしまうという問題点がある。
 そこでもし、半導体光触媒反応と酵素反応を電子伝達物質を介して複合した電子伝達系を構築し、且つこれら2種類の触媒をそれぞれ光照射場と暗所に分離して機能させることができれば、長時間の光照射を可能にした高い生成物選択性を有する人工光合成システムの構築が可能になると期待できる。
 この様な観点に立脚して、本論文では第一に、チタニア光触媒粒子で光励起した電子を、電子伝達物質を介してジアホラーゼ酵素と蟻酸脱水素酵素の共役反応に利用することで二酸化炭素の固定化反応を行う電子伝達系を考案し、これを一つの例として光エネルギーを利用して選択性良く有機合成を行う人工光合成システムの開発を目的とした研究である。また第二に、検討した電子伝達系を多孔質セラミック膜を内管として利用した二重管型反応器に組み込むことによって人工光合成反応器としての実現可能性を実験的に検証している。
 ここで提案した人工光合成システムのコンセプトとは、光に弱い酵素を「暗反応」として光触媒反応から分離して機能させることであり、例えば、多孔質セラミック膜で電子伝達系を光照射場(セラミック膜外側)と暗所(セラミック膜内側)に分離し、膜の細孔を通じて2種類の触媒反応を接続するというような設計により、本コンセプトを実現することが可能となる。従って、既往の研究で課題であった酵素の光失活による反応の持続性の問題を克服でき、光を駆動力として継続的に酵素反応を進行させることが可能となる。
 本論文では、光触媒反応と酵素反応の複合化の1つの例として考案した電子伝達系の構築可能性を検証するために、この系を構成する各触媒反応を段階的に解析することで電子伝達系の構築条件を検討している。まず2つの酵素(蟻酸脱水素酵素とジアホラーゼ酵素)を用いた共役反応の構築条件を検討した結果、最適pH条件、最適な酵素濃度比が実験的に求められたとしている。またチタニア光触媒反応による電子伝達物質(メチルビオローゲン)の還元挙動を検討し、速度式として提出している。さらに2種類の触媒反応の複合化に関して検討した結果は、チタニア光触媒反応と酵素共役反応とが接続可能であること、および反応の最適条件を実験的にも解析的にも決定できたとしている。
 さらに、この電子伝達系をセラミック膜を内管に装填した二重管型反応器に組み込み運転した結果、光を反応の駆動力として生成物が継続的に生産されることが実験的にも解析的にも検証され、提案した人工光合成システムが有効であることが確認されたとしている。

<論文審査結果の要旨>
 本論文の目的は、半導体光触媒粒子などの光機能性粒子と酵素を複合した電子伝達系を構築することで、光エネルギーを利用して選択性良く有機合成を行う人工光合成システムを開発することにある。
 申請者は、半導体光触媒反応と酵素反応を接続したまま、2種類の触媒反応を「明反応」と「暗反応」に分離することに着目した。半導体光触媒は光を駆動力として様々な反応を進行させる触媒であるが生成物選択性に乏しいという欠点があり、また酵素は高い生成物選択性を持つが光に弱いという弱点があることから、これら2種類の触媒反応を接続したままで酵素反応のみを「暗反応」として進行させることができれば、長時間の光照射を可能にした高い生成物選択性を有する人工光合成システムが可能であると期待される。
 そこで、本論文ではまず、チタニア光触媒粒子で光励起した電子を、電子伝達物質を介してジアホラーゼ酵素と蟻酸脱水素酵素の共役反応に利用することで二酸化炭素の固定化反応を行う電子伝達系を考案し、2種類の触媒反応を分離させて接続可能であるかを回分式で検討している。その結果は、各触媒反応の反応条件や速度解析などの検討過程を段階的に踏むことで2種類の触媒反応が接続可能であること、および電子伝達系の最適な構築条件を実験的にも速度論的にも示している。
 次に、人工光合成システムの概念を実現するための方途として、内管にセラミック膜を装填した二重管型反応器を設計・試作し、セラミック膜の外側(光照射場)と内側(暗所)とに2種類の触媒を分離し、且つ膜の細孔を利用して2種類の触媒反応を接続することで、本システムの有効性について検証している。その結果は、本システムによって光を反応の駆動力として生成物が継続的に生産できる事を実証したものであり、光触媒と酵素触媒を複合したバイオリアクターへの応用展開の道を開くものである。
 以上のように、本論文は、光触媒反応と酵素反応を複合することで、光エネルギーを駆動力として選択性良く有機合成を行う人工光合成システムを提案・検証し、さらに人工光合成反応器に応用することでその実現性を実証した。また、ここで提案したシステム概念は、光触媒の光エネルギーを化学エネルギーに変換する機能を利用して酵素の触媒反応を進行させる他の様々な電子伝達系の化学工業プロセスへの展開の道を開くものである。
 従って、本論文は、博士(工学)の学位論文として十分価値のあるものと認定する。

[最終試験結果の要旨]

  審査委員会は、審査委員による学位申請者の学力および研究能力判定のための諮問を行い、申請者が博士(工学)としての十分な学力と研究能力を有することを確認した。よって、審査委員会は申請者が最終試験に合格したことを認定する。