無機化学 よくある質問への回答

全般序論:宇宙と地球の元素分布原子構造化学結合固体の化学溶液の化学電気化学錯体化学典型元素の化合物遷移元素の化合物


全般

(Q1) 輻射線とは何か?
(A1) 光、紫外線、赤外線などの電磁波をさす。学術用語集では「放射線」。英語では radiation またはradiation lay。radiationの訳語は昔は「輻射(線)」だったが、戦後、「輻」が当用漢字から外れたことから、学術用語集では「放射」という用語が採用されている。しかし、radiation layを「放射線」と訳すと、一般には放射性崩壊の際に放出される「放射線」と思われるので、これを嫌って「輻射線」を使う人も多い。英語では、電磁波も粒子の放出も区別なく radiation が用いられる。

(Q2) 電子励起とは?
(A2) 原子核のまわりのいずれかの電子が外部からエネルギーをもらうと、よりエネルギーの高い軌道に移動する。その結果、電子全体の持つエネルギーが大きな状態(励起状態)になること。「励起状態」については、竹内「化学の基礎」p. 27-28を参照。

(Q3) ポテンシャルエネルギー、クーロン力、電場の強さとは?
(A3) ポテンシャルエネルギー=位置エネルギー。地表付近での位置エネルギーが重力に起因する(V = mgh)ように、原子核の周りの電子のポテンシャルエネルギーはクーロン力に起因する。
  


序論:宇宙と地球の元素分布

(Q1) 宇宙線の中性子と14Nとの核反応とは?
(A1) 大気圏の上層部でおこっている核反応で、必ずしも単純ではない。たとえば、14Cは
  14N + 1n → 14C + 1p
という反応で生ずる。3H (T) については、多くの書籍で言及されているが、具体的な生成反応に触れているものは(手元には)見当たらない。見つけた人は教えて下さい。

(Q2) テクネチウムやプロメチウムに安定な同位体が存在しないのはどうしてか?
(A2) 一般に原子番号が奇数の元素は、偶数の元素に比べて、安定な同位体が少ないことが知られています。そして、原子核物理化学の理論によると、原子番号と質量数との関係で、これらの元素には安定な同位体が存在しないことがわかっています。


原子構造

(Q1) 質量分析法とは?
(A1) 原子・分子レベルの粒子の質量を測定するための装置。電荷をもった粒子が電場や磁場の中を運動すると、その電荷に比例する力を受けるという電磁気学の法則を用いて、粒子の描く軌跡から比電荷(m/z)を求める。各種の方法を用いて粒子を1価の陽イオンに変えて、分析を行う場合が一般的である。

(Q2) 原子質量単位と原子量の違いは?
(A2) 原子質量単位は、原子・分子レベルの粒子の質量を表すために国際的に認められている質量の単位である。記号はuで、大きさは、12C原子1個の質量の1/12が1 uと定義されている。同位体の質量も、これを用いて表すことができる。
 原子量は、「同じ元素の原子について、同位体組成を用いて加重平均した平均質量の1 uに対する相対質量」として、国際的に定義されている。単位はない。
 高校化学では、簡単のために原子の相対質量という考え方(12Cの相対質量を12としたときの、各原子の相対質量)を導入し、原子量は「同位体の組成を用いて平均した相対質量」と表現している場合が多い。これは、原子質量単位を用いることが学習指導要領で許されていないためである。国内外を問わず、原子の相対質量という言葉は(高校以外の)化学の世界で正式に用いられる用語ではない。

(Q3) Zeeman効果とは?
(A3) 縮重している軌道はそれぞれ方向性を持っているので、磁場の中に置くと、各軌道と磁場との相互作用は、磁場の向きとの関係により異なる。このため、軌道によってはエネルギー準位が変化するため、縮重しなくなる。これをゼーマン効果という。

(Q4) 放射性元素の取り扱いはどのように面倒なのか?
(A4) 放射線は有害ですが、目に見えません。また、放射線を発生する放射性元素を含む物質(放射性物質)普通の物質と区別ができません。このため、放射性物質がみだりに環境に放出されると思いがけない被害を生じる危険があり、またこれを収集し、処理することは大変困難です。そこで、放射性物質は、放射線管理技術者の管理の下で、利用する放射性物質の種類によって定められた設備を備えた放射線管理区域の内部でのみ使用できることが、法律で定められています。そして放射性物質やその管理区域には、それを示すマークを付けなくてはなりません。また、放射性物質の使用者は管理区域内では常に被爆線量をモニターできるバッジを付け、定期的に被爆線量を調べて、安全基準を超えないように管理すると共に、一定期間ごとに健康診断を受け、被害が生じていないかをチェックすることが法律で義務づけられています。このように、普通の物質を取り扱う場合に比べて、はるかに取り扱いが面倒です。これも、自然環境や生活環境を安全に保つための工夫なのです。

(Q5) 電子の存在確率がその波動関数の二乗に比例するのはどうしてか?
(A5) 量子力学では、注目する粒子の波動関数ψは、その解の二乗の関数ψ2が、その粒子の存在確率を表す関数になるように定義されているからです。

(Q6) 一般の原子の原子軌道のエネルギー準位が4s < 3d となるのはどうしてか?
(A6) こうなる原因は、2s < 2p となる原因と基本的に同じですので、まずそちらから説明します。
 原子核の周りの電子は原子核からの引力を受けますが、同時に、他の電子からの反発も受けます。特に、注目している電子より内側にある(原子核に近い)他の電子(内殻電子など)からの反発は、原子核の正電荷を相殺し、その効果を遮蔽するかのように働きます。一方、より外側にある他の電子からの反発は、互いに相殺されてしまいます。したがって、同じ原子でも原子核からより離れた位置にある電子ほど、遮蔽の影響の大きさ(しゃへい定数、p. 31)は大きくなり、電子が実際に「感じる」核の正電荷(有効核電荷、p. 31)は小さくなります。一般にs軌道とp軌道では、p軌道のほうが原子核から離れた空間に広がっています(アトキンス「物理化学」第6版(東京化学同人)p. 373など)。そのため、p軌道のほうが有効核電荷が小さくなり、エネルギー準位は高くなるのです。
 3d軌道は3p軌道よりもさらにしゃへい定数が小さいためエネルギー準位が高くなり、主量子数nが1大きい4s軌道よりも上になってしまうのです。

(Q7) 原子核から遠く離れた位置でも、電子密度(存在確率)がゼロにはならないのか?
(A7) 存在確率がある場所で完全にゼロになるとハイゼンベルグの不確定性原理に反する(「ある場所」以外での存在確率が1になる)ので、完全にゼロにはなりません。しかし、現実には、十分遠く離れた位置では、事実上ゼロであると近似的に考えても、何ら問題はありません。

(Q8) 原子の第一イオン化ポテンシャルが、同一周期で原子番号と共に単調に増大せず、NとOの間、PとSの間のように、減少する場合があるのはどうしてか?
(A8) 同じ原子軌道に2個の電子が入る場合には、電子同士の反発が無視できません。これが、フントの規則の背景にあります。反発があるとその分(「電子対形成(反発)エネルギー」という)だけエネルギー準位が高くなります。Oの(有効)核電荷はNよりも大きいため、エネルギー準位は低くなる傾向にありますが、Oの2p軌道の場合には電子対形成(反発)エネルギーがこれを上回るため、Nの2p軌道よりエネルギー準位が高くなっています。OやNの第一イオン化ポテンシャルは2p電子の放出によるものですので、2p軌道のエネルギー準位の高いO原子のイオン化ポテンシャルはN原子よりも小さくなります。PとSの場合も同様です。、

(Q9) どの原子でも、第2イオン化エネルギーは第1イオン化エネルギーよりも大きく、第3イオン化エネルギーは第2よりもさらに大きくなるのはなぜか?
(A9) 同じ原子について考える場合に、中性の場合と陽イオンの場合とで、有効核電荷はどちらが大きいかを考えてみれば、わかるはず。


化学結合

(Q1) 定比例の法則が成り立たなくても、「不定比化合物」は化合物であるといえるのはどうしてか?
(A1) いろいろな論拠がありますが、たとえば化合物と混合物を分ける重要な特徴である「物理的な操作によってその成分に分けることができない。」が成り立っているからです。

(Q2) 超原子価化合物の電子配置はオクテット則では説明できないがどうなっているのか?
(A2) これらの化合物の中心原子はいずれも周期表で第3周期より下にあることから,はじめは空のd軌道が関与するsp3d(三方両錐) やsp3d2(正八面体)の混成軌道を考えて説明されていました。しかし,その分子構造が明らかになるにつれて,これらの超原子価化合物の結合長が通常の単結合より長く,結合が弱いことがわかってきました。そこで,最近では,これらの各結合は構成している電子数が2個より少ない「電子不足結合」であると考えるようになっています。

(Q3) 元素組成が一定でない不定比化合物がどのようにして存在可能なのか?その構造は?
(A3) 分子性化合物では不定比化合物は存在しません。すべて固体化合物です。たとえば、Fe0.97Oでは、結晶中のFeの存在すべき位置が3%だけ空隙になっています。そして、その近傍のFeがFe(III)となる(FeOではFe はすべてFe(II))ことで、電気的中性を保っています。空隙の割合はある範囲(この場合は0〜3%)で変わりうるので、元素組成が一定にならないのです。

(Q4) 分子間力とは?
(A4) 分子間に働く弱い引力の総称。Van der Waals力ともよばれる。極性分子間に働く「双極子ー双極子相互作用」、極性分子と無極性分子の間でも働く「双極子ー誘起双極子相互作用」、無極性分子間を含むすべての分子間に働く「誘起双極子間の相互作用」に分けられる。時に水素結合も含めることがある。

(Q5) 昇華する物質に共通の特徴とはどのようなものか?
(A5) 分子性物質で,極性の低い物質です。熱力学的には,三重点の圧力が1気圧より大きい物質では,1気圧では液体状態を取ることがないため,室温で気体の物質(二酸化炭素など)は冷却すると昇華して固体になり,室温で固体の物質(ヨウ素など)は加熱すると昇華して気体になります。

(Q6)「軌道が正負も含め対称心を持つ」とはどういうことか。
(A6) 原子軌道は、すべて原子核を中心として対称または反対称になっている。教科書などの軌道の図を参照。

(Q7) HOMO、LUMOとは?
(A7) HOMO: highest occupied Molecular Orbital 最高被占軌道。電子の入っている軌道の中でもっともエネルギーの大きなもの。
LUMO: lowest unoccupied molecular orbital 最低空軌道。電子の入っていない軌道の中でもっともエネルギーの小さなもの。

(Q8) 「同じ原子軌道では、電気陰性度の大きい原子のほうがエネルギー準位が低くなる」のはどうしてか。
(A8) 厳密には論理が逆で、「原子軌道のエネルギー準位が低い原子のほうが電気陰性度が大きい」が正しい。周期表で右にある原子のほうが原子軌道のエネルギー準位が低いため、共有結合を作ったときに結合性軌道に対する寄与が大きくなります(以下、有機化学Iの講義資料5-2の「参考」を参照しながら読んで下さい)。そのため、結合性軌道に電子が入ると、その分布はエネルギー準位の低い軌道をもつ原子のほうで存在確率が大きくなるように偏ります(結合の極性または共有結合のイオン性)。ポーリングの電気陰性度はこの電子分布の偏りに基づいて定義されているので、周期表で右にある原子のほうが電気陰性度が大きくなります。オールレッド・ロコウの電気陰性度は、原子軌道のエネルギー準位に違いを生じる原因である有効核電荷を用いて定義されているので、やはり(有効核電荷の大きい)周期表で右にある原子のほうが電気陰性度が大きくなります。

(Q9) 結合性分子軌道が形成されるための条件として、「原子軌道のエネルギー準位が近い」という項目が含まれているのは、どうしてか。
(A9) (原子軌道に限らず)軌道同士が相互作用するためには,相互作用する軌道のエネルギー準位が互いに近いほど相互作用して生じる新しい結合性軌道のエネルギー準位が低くなるので,有利です。
 逆の極端な例として,塩化ナトリウムの場合,ナトリウムの3s軌道と塩素の3p軌道では塩素の3p軌道のほうがはるかに低くなっています(イオン化エネルギーからわかる)。そのため,相互作用したとしても,新たに生じる結合性軌道のエネルギー準位は塩素の3p軌道とほぼ同じになります。そして,結合性軌道に対する塩素の3p軌道の寄与が圧倒的に大きいですので,結合性軌道の電子雲は塩素の周囲に著しく片寄っています。したがって,この軌道に2個の電子が入ったとしても,その電子はほとんど塩素原子の周囲にしか分布しません。これは,ナトリウムがナトリウムイオン(Na+)になり,塩素が塩化物イオン(Cl-)になった状態とほとんど同じです。塩化ナトリウムを高温にして気化させるとNaCl分子が生成すると言われていますが,この分子では,上のような電子状態になっていると考えられます。

(Q10) 「ポーリングの電気陰性度は、原子の酸化状態が高くなるほど大きくなる」のはなぜか。
(A10) 酸化状態が高いということは、それだけ電子が不足しているということである。電子が不足していれば、それだけ電子を引き付けようとする力が強くなる。したがって、同じ原子であれば、酸化状態が高いほど電気陰性度は大きくなると考えてよい。


固体の化学

(Q1) 結晶格子が crystal lattice なのに単位格子が unit lattice でないのはなぜか?
(A1) 「単位格子」という言葉はどうやら日本で作られた言葉のようである。学術用語集ではunit cell に対応する「単位胞」(配布したプリントで使われている)を採用している。英語の感覚では lattice は縦横の「仕切り」、あるいはこれから派生して「格子で仕切られている空間全体」を意味しているようである。したがって、結晶(crystalline)という大きな空間の中の、目に見えない lattices で区切られている小さな空間を lattice とよぶことはできず、「小部屋」を意味する cell と呼んでいるのだろう。
 高校教科書が一律に「単位格子」という用語を使っているのは、高校の先生が「単位胞」という用語になじみがないからだろう。しかし、よく考えてみると、この言葉は日本語でもおかしくないか?格子の「仕切り」の1本ずつを「格子単位」または「単位格子」とよぶのならわかるが、格子で仕切られた「碁盤の目」のような空間を果たして「格子」と呼べるだろうか?また、こういう基本的な学術用語について、文部省自身が制定した学術用語集と違う用語を今なお教科書検定で容認しているのは異例なことである。
 なお、cell には「細胞」の他に「電池」という意味もある。

(Q2) アモルファスが液体と固体の中間的な状態であるというが、どのような点で「中間的」なのか?
(A2) 「ほとんど流動性を示さない」点では固体と同じですが、「規則的な繰り返し構造を持たない」点では液体と同じ性質になります。

(Q3) 超高純度の単体を作ることが科学技術上極めて重要になってきたのはどうしてか?
(A3) Si(シリコン)など、一般に半導体の性質をもつ物質は、極微量の不純物を加えること(ドーピング)により、その性能を発揮することが知られています。安定した性能を発揮する半導体を常時生産するためには、加える不純物の割合を一定にする必要があります。そうでないと、Siの中に初めから含まれていた不純物の種類や量によって半導体の性能にばらつきが生じてしまうからです。このような初めから含まれていた不純物の影響を防ぎ、加えた不純物の量が一定なら同じ性能を発揮できるようにするために、不純物の割合を極めて小さくした超高純度の単体を作る必要があるのです。

(Q4) アモルファス状態は結晶よりはエネルギー的に不安定だとしたら、なぜ身の回りにたくさん見られるのか?
(A4) 身の回りに見られるアモルファス状態の多くは高分子または極性の大きなイオン性または分子性の化合物です。これらの物質は粒子間に働く力が強いため,液体状態でも粘度が高いのが特徴です。このため,融点付近で粒子が運動しながら安定な繰り返し構造を作るには時間がかかります。したがって,液体状態から急速に冷却すると,安定な結晶にはならず過冷却状態の液体のまま,強い粒子間の力のために粒子の運動が見かけ上止まった状態になってしまいます。これが,「ガラス状態」ともよばれる身の回りでよく見かけるアモルファス状態です。エネルギー的には結晶状態に比べて高い「準安定」な状態ですが,より安定な結晶状態へと変化するには大きなエネルギーを与える必要があり,室温付近の内部エネルギーでは十分ではないため,室温付近では安定に存在します。

(Q5) 単位格子(単位胞)に含まれる粒子の数がわかると何がわかるのか?
(A5) 単位格子は繰り返し構造の基本単位ですから,その中に含まれる粒子の種類と数がわかれば,その物質の組成が分かります。また,各原子の原子量がわかれば,密度を計算することができます。単位格子は,固体物質の巨視的な性質を粒子レベルから考える際の基本単位ということができます。

(Q6) 金属の結晶はhcp,ccpが多く,bccのものが少ないのは,「占有率が小さい構造は相対的に不安定」と考えてよいのか?
(A6) 金属に限らず,原子,分子,イオンなどの粒子の間には引力が働き,互いに近づこうとする傾向があります。そのために,なるべく接近して占有率が大きくなろうとする傾向があります。一方,アルカリ金属のように自由電子となれる価電子が少ない金属では,価電子を放出した原子間の静電反発を自由電子が十分に中和することができないために,反発力が勝って原子間距離が広がり,bccとなります。このように原子間の引力が弱いことがアルカリ金属の柔らかさの原因となっています。しかし,このことと化学的な安定性との間に関係があるわけではありません。

(Q7) 「あるイオンの周りの反対電荷イオンの数が大きくなるほど、原子間距離が長くなるので,イオン半径が大きくなる」のはどうしてか。
(A7) イオン結晶で,中心の陽イオンのイオン半径が小さいほど,その周囲を取り囲むイオン半径の大きな陰イオンの数は少なくなります(齋藤「無機化学」p. 27-29) 。また,同じ陰イオンのイオン結晶では,陽イオンのイオン半径が小さいほど原子間力が短くなります。一方,結晶構造の観測結果からわかるのは,あるイオンの周りにある反対電荷イオンの数と原子間距離であり,これらからそのイオンのイオン半径を推算します。その際には,質問にあるような傾向が見られることになります。

(Q8) 金属はどのようにして金属光沢を示すのか。
(A8) 金属結晶では多数の自由電子が動き回っているので、光は電子にぶつかって反射するから。

(Q9) 高分子と巨大分子の違いは?
(A9) 特に明確な違いはありません。強いて使われ方に違いがあるとすれば次のような点でしょうか?タンパク質のような天然高分子やポリエチレンのような合成高分子は,分子量が(一般には一万より)大きな分子性物質といえます。つまり、分子をその構成要素としてとらえることができ、その物性値の一つとして分子量(合成高分子の場合には平均分子量)が考えられます。一方、一般に「巨大分子」とよばれる炭素単体や二酸化ケイ素などの共有結合性物質では、分子をその構成要素としてとらえたり、分子量を考えることはほとんどありません。


溶液の化学

(Q1) 双極子モーメントの求め方は?
(A1) 試料を電極間に置き、交流電場をかけたときの応答を観測します。極性分子は電場の強さに比例するモーメント(回転しようとする力)を受けるので、交流電場の周波数と電圧が特定の値の時に、電場の周波数と分子の回転の周波数とが一致する(共鳴)ので、試料の応答が変わります。この性質を利用して試料分子の双極子モーメントを求めることができます。詳しくは電磁気学の教科書を見てください。

(Q2) 誘電率の求め方は?
(A2) 誘電体を電極の間にはさんでコンデンサを作ると、その電気容量は誘電率によって変わります。この性質を利用して、誘電体の厚さと電気容量との関係から誘電率を求めることができます。詳しくは電磁気学の教科書を見てください。

電気化学

(Q1) 液間電位が実測できない理由は?
(A1) 電池内部の特定の部位間の電位差を測定することはできないからです。

(Q2) 白金黒付電極とは?
(A2) 不活性な電極(黒鉛の場合が多い)の表面に白金の微粒子を付着させた電極です。少量の白金で白金棒の電極と同様の性能を引き出すことができるので、高価な白金棒を使うより経済的です。また、微粒子を用いることで、溶液との接触表面積を増やせる利点もあります。微粒子が黒色に見えるので「白金黒」と呼ばれます。

(Q3) 「歴史的な理由により、電流の向きは、電子の流れの向きの反対である」とあるが、「歴史的な理由」とはどのような理由か?
(A3) 電気が見つかったのは、その本質である「電子」が見つかるよりもはるかに昔であった。金属などの導体中を電気が流れること(電流)は発見されていたが、その方向を決める理論的な根拠はなかった。しかし、電気の流れる方向を決めなければ電気の理論は構築できないことから、当時の科学者達(電気学の先駆者であるクーロン、ボルタ、アンペール、オームらはいずれも1800年頃に活躍した)は二者択一の「賭け」をするしかなかった。
 その際に、ダニエル電池などの「正極」から電極に金属単体が析出する現象や「負極」から金属が溶出する現象を見て、当時の科学者達が次のように考えたとしても無理はない。

 金属を他の元素と結びつけている未知のX(電気の本体)がある。Xは「正極」で金属の化合物から離れる(その結果、他の元素から解き放たれた金属の単体が析出する)。そして、Xは導線を通って「負極」へと流れる(これが電流)。「負極」の表面では、流れてきたXが金属単体を溶液中の他の元素と結びつけて化合物を生じ、溶液に溶け出す。
 こう考えれば、電流が電池の「正極」から「負極」へと流れると考えるのは至って自然である。電気分解も同様にして説明できる。電池の「正極」から流れてきたXが電解槽の「陽極」表面で金属単体と電解液中の他の元素を結びつけるために金属は化合物となって溶け出す。「陰極」表面では、電解液中の金属化合物からXが離れるために金属単体が表面に析出する。Xは「陰極」から電池の「負極」へと流れる。
 こうしたこともあって、電気は電源の「正極」から「負極」へと流れると定義されたのだろう。

 アレニウスの電離説が発表されるのは1885年、電源の「負極」につないだ「陰極」から放出される「陰極線」が負の電荷を持つ微小粒子であることがトムソンによって明らかになるのは1897年である。外れた「賭け」に基づいて構築された電磁気学の理論を「ひっくり返す」にはもはや「手遅れ」だった。

(Q4) カチオン,アニオンとは何のことか?
(A4) カチオン(cation ):陽イオン。アニオン(anion):陰イオン。陽イオンは電気分解の際に負極(cathode)で還元され、陰イオンは正極(anode)で酸化されることからこの名がついた。「陽=正、陰=負」と考えると対応しないので注意。


錯体化学


典型元素の化合物

(Q1) 二元系物質とはどのようなものか。
(A1) 二種類の元素からできている物質。ほとんどの場合、一方の元素が陽性で、もう一方が陰性であると考えることができる。

(Q2) ストックのジボランの生成反応は?また、いくつもの水素化ホウ素化合物が生成するのはどうしてか?
(A2) ストックのジボランの生成反応は、無機酸をHXで表すと次式で表される。これを完成させる。

MgB2 + HX → BH3 + BX3 + MgX2 ...

考え方:ホウ素の自己酸化還元反応と考える。すなわち、MgB2のBが酸化数の変化のバランスを取ってBH3 と BX3 に分かれる。

MgB2 + HX → BH3 + BX3 + MgX2 ...
B(-1)  →     B(+3) +4e-
B(-1)  →  B(-3) -2e-:ここでは簡単のために電気陰性度とは関係なくH(+1)と考えた。
したがって、BX3:BH3 = 1:2でバランスが取れる。

3B22- + 12HX → 4BH3 + 2BX3 + 6X-

Mg2+ + 2X- → MgX2

2BH3 → B2H6

バランスを取って足し合わせると次式となる。

3MgB2 + 12HX → 2B2H6 + 2BX3 + 3MgX2

 他の水素化ホウ素化合物の例として、B4H10の生成を考えてみる。上と同様に酸化数の変化を考慮すると、BX3:(1/4)B4H10 = 3:8でバランスが取れる。

11B22- + 40HX → 4B4H10 + 6BX3 + 22X-

したがって化学反応式は、

11MgB2 + 40HX → 4B4H10 + 6BX3 + 22MgX2

このように、無機酸がいろいろな割合で反応することにより、さまざまに組成の異なる水素化ホウ素が生成する。
 実際の反応はもっと複雑である。


遷移元素の化合物

(Q1) ランタニド元素とは何か?
(A1) 周期表の第6周期の第3族(希土類元素)の欄には,ランタンから始まる4f軌道に電子が入っていく元素(内部遷移元素ともいう)が,5dに電子が1個入っているルテチウム(Lu)と「同居」しています。これらの元素は他の第3族(希土類)元素と化学的性質が似ているために,ランタニド(「ランタンのような」という意味)と呼ばれます。周期表(通常の長周期表)では下側に並べて表示されます。同じように,第7周期の第3族の欄にあてはまる元素は「アクチニド」と呼ばれます。