有機化学I演習課題

第1回ヒント

 「違いの分かる」人になろう

 物質の分類による性質の違いは、高校化学や大学の一般化学の教科書に、対応する主な物質と共にまとめられている。この違いを理解していることは、理系大学生の常識、市民の常識なので、まだ性質の違いが分からない人は今すぐに勉強しよう
 この演習では、物質の分類を名前から見当をつけることを試みる。慣れれば高校程度の化学知識で十分に分類可能であり、上で述べたように、分類が分かればおおまかな性質がわかる。言い換えれば、名前だけで物質の性質がある程度分かるのである。



 (ヒント)見慣れない化合物の正体を探るには、Wikipedia などの検索サイトで調べるのも有用だが、薬や香料など、種類によっては次のページが意外に役に立つ。


 まず、金属と高分子を見分けよう。
 金属の単体は、元素名でわかる。身近にあるものは、Mg, Al, Ti, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Pt, Cu, Ag, Au, Zn, Cd, Hg, Ge, Sn, Pb, Sb程度。化合物としては身近に感じる金属元素でも、Li, Na, K, Ca, Sr, Baの単体は実験室や工場以外ではまず見られない。身近によく知られている合金は限られており、いずれも特有の名前で呼ばれている。
 有機の合成高分子のほとんどは、「ポリ〜」で始まる。天然高分子は特有の名前で呼ばれている。人を含めて生物体内にはたくさんの種類が存在しているが、身近によく知られているものはあまり多くない。無機高分子は自然界に量はふんだんにあるが、種類は多くない。一般に「鉱物」と呼ばれるものの成分のいくつかがこれにあたる(イオン性物質もある)。なお、タンパク質や核酸などのような天然高分子や、カルボキシメチルセルロース(カルメロース)塩、ポリアクリル酸塩などは、高分子鎖中に解離している官能基を含んでおり、厳密には「イオン性高分子物質」とでも呼ぶべき物質だが、一般には「高分子」として分類される

 イオン性物質は、(  )n+ (  )n- のように陽イオン部分と陰イオン部分から構成されており、名前にもこれが反映されていて、2つの部分が組み合わさってできている。日本語名では陽イオン部分が後に来る。名前の陽イオン部分は、身近なもののほとんどは金属元素名または「〜アンモニウム」である。(  )部分が無機の場合は、陽イオン、陰イオンを問わず、元素名またはそれに由来する特有の名前で呼ばれるのが普通。そうでないものは有機と考えてよい。なお、「電解質」には「水溶液になるとイオンを生じる物質」が含まれており、イオン性物質でないものも少なくない(たとえば塩化水素、酢酸はイオン性物質ではない)ので注意されたい。

 残るは分子性物質である。講義で話したように物質の90%以上は有機化合物なので、「有機物」に分類すれば確率90%以上で当たる。無機物の場合は、イオン性物質の場合と同様に、元素名またはそれに由来する特有の名前で呼ばれるものがほとんどであることを利用するとさらに確率は上がる。

 もちろん、複数の分類のどれが適当か判然としない物質も、世の中には存在する。

 以上のことから、身近にある元素の名前(金属元素はすでに出尽くした。非金属元素は、B, C, Si, N, P, As, O, S, F, Cl, Br, I, He, Ne, Ar、Kr。あわせてせいぜい40個)を知っているだけで、物質の分類がかなり正確にできることがわかる。さらに周期表での位置を知っていれば、金属かどうかを覚える必要もないし、イオン性物質かどうかの判断も簡単になる。


(補足:困った例、誤答例)
 以下は過去の回答に分類されていたが、それぞれ記載されたような理由から分類不可能な例である。成分表示や材料表示では、このように、必ずしも化合物名で記されていないものも多い

○混合物である。成分によって分類が異なる可能性がある。
バター、シルクエキス、塩酸、アンモニア水、牛乳、〜ワックス、マーキュロクロム、はちみつ、〜エキス、小麦粉、カカオマス、ココアバター、ホルマリン、緑茶、〜色素、マーガリン、ペンキ、フッ酸、カルミン、木材、ルビー

○物質ではなく物体の名前である。
 砂、粘土、不織布、一円玉、木、イースト、ガムベース、ガム、ゴン、ピストンリング、寒暖計、卵白、トウモロコシ、合成雲母、コークス、マンガン鉱石、タルク、乳白、LCD、ゴム、スチール繊維、真珠

○物質ではなく状態の名前である:水飴、液晶、ゲル、ガラス、フィルム、樹脂、クロスポリマー

○慣用名、商標名などのため、名前からは判断が難しい。
ゲル化剤、電池セパレータ、コカミドDEA、コカミドMEA、アルキルペタイン、アスベスト、火山ガラス、セメント、パイレックス、軽フリント、ホエイソルト、群青、紺青

○純粋な物質としては存在しないもの:炭酸、次亜塩素酸、塩酸

○集合名であり分類になじまない。一般的な分類を示したが例外も少なくない。この表を見た人は回答に含めないように
金属:半導体、ステンレス
有機分子:ロウ、香料、植物油脂、金属内包フラーレン、ステロイド、シクロファン、スルホン酸、エポキシ化脂肪酸、アミノ酸、脂質、ミネラルオイル(鉱油)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル
有機分子またはイオン:界面活性剤、ビタミン類、薬物
有機イオン:染料、調味料、〜剤、洗剤、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、エデト酸塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩、大豆系リン脂質、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム
無機イオン:炭酸塩、肥料、漂白剤
有機高分子:コポリマー、イオン交換樹脂、〜樹脂、大豆多糖類、ポリスチレン誘導体、プラスチック
無機高分子:アルミノケイ酸塩

○名前が不完全または誤っている。
パーフルオロポリメチルイソプロピル、ビスカリウム、〜イオン、アルミ、カルペン、スチレン-ジビニルベンゼン、コラン、塩化セチルトリメチル、ビスニッケル、セチルジメチコンコポリオール