2016年まえがき

 2015年度には新しい学習指導要領の下で学んだ学生が入学してきた。これと時を合わせるかのように、工学部から理工学部への改組があり、従来の3学科を改編して新たに共生創造理工学科が発足した。新学科のカリキュラムでは1年次に「化学A」「化学B」が設けられ、「有機化学I」は「生命理工学」および「環境理工学」領域のための基礎科目としての役割を引き続き果たすとともに、「有機化学II」は「物質理工学」領域の基礎科目(必修科目)としての役割をも果たすことが求められるようになった。そこで、大学「化学」の基礎的内容を「化学B」に譲る一方、「酸と塩基」の大部分(「酸・塩基の強さと電子効果」を除く)と「立体化学」のうち「相対配置(DL表示)」を「有機化学II」から「有機化学I」に移した。
 こうして「有機化学II」にできた時間を利用して、「遊離基反応」を一章にまとめて充実させると共に、懸案だった「転位反応」「周辺環状反応」を導入した。これによって、有機化学反応の基礎は(光化学反応を除いて)ほぼ網羅されたことになる。一方、「芳香族性」「色(紫外可視吸収)」などの構造・物性に関する基礎的な項目は、π電子の分子軌道を基にして考察することが必要であり、レベル面でも時間面でも「天然物有機化学」の基礎とトレードオフになることから、「生命理工学」「環境理工学」領域の履修者を考慮し、引き続き「分子設計」で対応することにして導入を見送った。このように「第2部」の改訂が多岐にわたったことから、「第2部」の旧版の資料を引き続き公開し続けることにした。
 また、有機化学物の命名法では、2013年のIUPAC勧告を取り入れて日本化学会の解説書が改訂された(「化合物命名法ーIUPAC勧告に準拠 第2版」)のを機会に、できるだけ同勧告を尊重し、必要に応じて併記するように努めた。
 2科目4単位の範囲で、多くの人が必要だと思う基礎的な内容をすべて盛り込むことは困難である。含まれていない項目、十分に取り扱われていない項目については、これまでと同様に独習によって補って戴きたい。

2017年9月19日

2009年まえがき

 その後、2003年には環境共生工学科が発足し、「無機化学」が専門科目として加わった。2007年度と2009年度にはカリキュラムの改訂があり、「有機化学I」(環境は「基礎有機化学」)のみが必修となったことや、「フォックス・ホワイトセル有機化学」の品切れ、「ゆとり教育」カリキュラムへの対応、講義時間数の増加などの変遷に合わせ、並列式から積み上げ式へと徐々に移行し、「有機化学I」に「有機化学反応の基礎」を加えて、「立体化学」の一部、「電子効果」「酸と塩基」を「有機化学II」に移した。また、「天然物有機化学」の基礎を「有機化学II」に加えると共に、ともすれば暗記中心に偏りがちなこの部分の評価をCollab Testで行うことにして、定期試験での負担の軽減を図った。

2000年まえがき

 1999年度の新入生より生物工学科のカリキュラムが改訂され、「有機化学I」「有機化学II」が必修科目になりました。同時に、「有機化合物の分光学」は2年次の「分析化学II」で扱うことになりました。また、同年秋には「フォックス・ホワイトセル有機化学」の和訳が刊行されたことから、2000年度よりこれを教科書あるいは参考書として採用することにしました。そこで、このことを前提とし、また1997年度入学生より高等学校のカリキュラムが改訂されていることを考慮して、内容の更なる精選を果たすべく1999年度に従来の講義内容の全面的な見直しを行いました。そして、その成果を基にしてこの「講義資料」をまとめました。

 この資料の主な特徴は次の通りです。
・各項目ともに各論的記述は極力抑え、全体像および基礎概念の理解に必要かつ適した内容に絞って掲載するよう努力しました。
・講義の流れからやや外れるが重要な内容や講義内容の理解に必要な他分野の内容は「補足」としました。
・重要ではあるがやや高度な内容は「参考」としました。
・第7章「立体配置と立体異性体」では、「生命現象と鏡像異性体」「相対配置(DL表示)」を「参考」にとどめました。この取り扱いには異論があるかも知れません。
・天然物および生体物質に関する内容は扱っていません。本学では他の講義(「生化学」「生物有機化学」など)で詳しく取り扱われるからです。
・化学を専門とする人にとっては必須の基礎的な概念がいくつか抜けています。たとえば、第1部では「芳香族性」を、第2部では「転位反応」「周辺環状反応」を取り扱っていませんし、「遊離基反応」も参考程度にしか取り上げていません。また、有機化合物の各論的な知識は十分とは言えませんし、「有機合成の基礎」も取り扱っていません。「有機化学」を深く学びたい学生あるいは大学院入試で「有機化学」を選択する学生は、下に挙げた参考文献から適当なものを選んで補って下さい。

 以上のような次第ですので、市販の教科書などと比較すると、重要であるにもかかわらず欠落している内容がたくさんあります。その点はご承知おき下さい。

 なおミスや誤り、あるいは難解な点が残っているかと思います。また、特に生命科学・生命工学分野の基礎科目として位置づけた場合に、取り扱ったほうが望ましい内容が欠落しているかも知れません。お気づきの点を下記宛お知らせ戴ければ幸いです。

 旧版に対して多々ご指摘ご助言を戴きました稲本直樹先生および野村祐次郎先生に深く感謝致します。

2000年9月11日


伊藤眞人
(連絡先)
〒192-8577 八王子市丹木町1-236 創価大学理工学部
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E-mail: itomasasoka.ac.jp