原則を大切に

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 大学生ともなれば、ずっとスポーツを続けてきた人間はそれなりの筋力や瞬発力を身につけているし、また運動部に入って鍛えれば、さらにこれに磨きがかかることになる。そのこと自体は、プレーの幅を広げるための基礎になるものなので結構なことではある。しかし、筋力に頼りすぎるあまり、ボールを打つうえでもっとも大切な原則をないがしろにしてしまったのでは、せっかく鍛えた筋力のムダ遣いとなり、プレーの幅を広げるどころか逆に狭める結果にもなりかねない。高校または大学からテニスを始めた人は、なまじ筋力があるだけに、筋力に頼るフォームになりがちである。それまで他のスポーツをプレーしていた人はなおさらである。この機会に、テニスを構成する各プレーの原則を振り返ってみたい。

1.グラウンドストローク

軸足を見よ

 よく「乱打のエース」と呼ばれる後衛がいる。乱打をさせると滅法いい球を打つ。が、試合になると不思議にあまり勝てない。試合前の乱打などでもそうである。相手をしていて「これは大変だ」と思っていても、いざ試合が始まると不思議に厳しい球が飛んでこなくなる。理由はいろいろあるが、精神面などを云々する前に軸足の決まる様子を観察するといい。
 乱打の時は相手の打って来るコースもほぼ定まっているし、自分が打つコースも決まっているから、それだけを考えて軸足を決めればいい。しかしいざゲームが始まると様相は一変する。相手の打ってくるコースは決まっていないし、相手前衛は「スキあらばポーチに出よう」と待ち構えている。乱打の時にいい加減な軸足の決め方をしていると、ゲーム中のこのような状況に柔軟に対応することはできない。結局リズムを崩し、ミスを連発するか、極端にボールの威力が落ちるかしてしまうのである。逆に、試合前の乱打では球威はそれほどではなくても、軸足をしっかり決めて打ってくる後衛は要注意である。
 まずフォアハンドから、軸足の位置とスタンスについて考えて行こう。

フォアハンドの軸足は相手打球のコースに対して決める

 右利きの場合、フォアハンドの軸足は右足である。そして理想的な打点は、相手打球のコースに対して前足(右利きでは左足)のかかとから垂線を引いた時の交点にある(左利きの場合はこれと反対)。この打点を中心として、相手打球のコース(ここでは「球線」と呼ぶ)と自分の左右の足を結ぶ線(同じく「足線」と呼ぶ)との関係に基づいて、以下にスタンスを分類する。


オーソドックスでパワーのある平行スタンス

 平行スタンスでは、上記2つの直線がほぼ平行に近い。球線と足線との距離は、ヘソの高さでシュートボールを打つ場合で、(ラケット+肘から先)の長さ程度である。打点がこれより高くても、低くても、この距離は短くなる。ラケットを斜めに使うからである。
 このスタンスの最大の長所は、打球方向への体重移動の距離が大きいので、体重の移動を有効に利用できる点にあり、それだけ球威のあるボールを打つことができる。自分の一番いい球を打つときは、たいてい平行スタンスに近くなっている。この意味では攻撃型のスタンスといえる。
 逆に相手打球に押し込まれた場合には、腰の回転がうまく使えなくなり、球威が落ちると共に引っ張るコースに打ちづらくなるのが欠点である。だから相手に押され気味の時は、無意識のうちに次に述べるオープンスタンスになっているのが普通である。
 右利きの後衛では、優れた選手ほど、試合中のさまざまな状況の中で平行スタンスで打てる機会が多くなっている。それだけ足運びが早く、軸足を決めてから打つまでの時間が短いということである。

球威は落ちるが実戦的なオープンスタンス

 球線と足線とが軸足側の延長上、打点の後方で交わるのがオープンスタンスである。軸足から球線までの距離は、平行スタンスの場合に比べてやや短い。打点は基本的には軸足の近傍にある。体重移動の方向が自打球の方向と一致せず、移動距離も平行スタンスに比べて短いので、球威は平行スタンスに比べて落ちる。
 最大の長所は、腰の回転を有効に使って引っ張る方向に打てる一方、ボールを引きつけて流し打ちができる点である。全日本クラスの選手も含めて、左利きの後衛のほとんどがオープンスタンスであるのはこのためである。上で述べたように、軸足から球線までの距離が(ラケット+肘から先)の長さより短いので、ボールを軸足近くまで引きつけておいて、上体を前足の方に逃がしながらボールとの距離を調整し、流し打ちをする。上体を逃がす時に、腰から上は回転させずに残っているのがポイントである。昔で言えば、現役時代の長嶋茂雄選手の打法である。
 一方、引っ張るときには、上体を残しておいて打点をやや前にすることで、自然に足線の方向に打つことができる。上体の逃がし加減を調節することで、この二方向の中間のどの方向にでも打ち分けることができる。上手な後衛では、バックスイングを大きくすることで、フォワードスイングに入るまでどの方向に打つかを相手に悟らせない。
 打点を後方に取れるので、相手に押し込まれた場合にもなんとか対応することができる。右利きなら攻守両面、万能型のスタンスであるが、左利きでは正クロスから右ストレートに引っ張る球を活かした攻撃的なテニスを展開することも少なくない。

極端なクローズドスタンスは流し打ちができない

 上とは逆に、球線と足線とが前足側の延長上、打点の前方で交わるのがクローズドスタンスである。軸足から球線までの距離は、平行スタンスの場合よりも長い。したがって、打点は前足の近傍になる。
 右利きの後衛が正クロスに引っ張るのには、ややクローズドスタンス気味なのが理想的である。自然に打点が前になるので腰の回転を活かすことができるし、体重の移動も有効に使える。イースタン気味のグリップなら、さらに容易に引っ張れる。問題は、流し打ちが難しい点である。ボールを引きつけて打点を後ろにしようとすると、ボールが体から離れすぎてしまうのである。この結果、ボールとラケット面が接する時間が短くなり、球速のコントロールが難しくなる。いわゆる「ボールを抑えきれない」状態である。極端なクロズードスタンスでは、もはや引っ張ることしかできなくなる。スタンスにだまされない前衛(大学のまともな前衛はたいていそうだが)に会おうものならいいようにカモられてしまう。
 これを防ぐためには、前足を十分に球線に近づけ、引っ張るときは、前足への体重移動を抑え気味にしなければならない。しかしこれではせっかくの体重移動が活かされないことになり、打球の威力は半減する。それでもバックスイングを大きめにすれば、フォームを読まれることなく、普通は難しいはずのクロズードスタンスからの流し打ちで相手を幻惑させられることから、球威を重視しない技巧派の後衛がこのスタンス を用いる場合がある。それにしてもクローズの程度は、正クロスでは足線がサイドラインに平行になるあたりまでが限度であり、それを超えた場合には球威が落ちる上に流せないという二重苦に陥る場合がほとんどである。
 クロズードスタンスのハードヒッターの後衛と対戦するとき、前衛のなすべきことはただ一つ。「クロスポーチに出よ」である。ポーチに気づいてとっさにサイドパスを打ってもたいていは抑えきれずにバックアウトするし、サイドを意識してスタンスやフォームが変われば、相手は自分の一番打ち易い打ち方をしていないのであり、当然相手打球の威力や安定性は落ちる。それだけ味方後衛が楽になるのである。

バックハンドの軸足は自打球を引っ張るコースに対して決める

フォアハンドのスタンスが相手打球の球線に基づいて決まるのに対して、バックハンドの軸足(右利きでは左足)の位置は、自分が打球しようとする方向(以下「打球線」と呼ぶ)を基準にして決められる。これは、バックハンドで打つ際には、基本的には打球方向に対してクローズドスタンスを取る必要があり、打点も前足(右利きでは右足)の近傍になることによる。
フォワードスイングと腰のひねり方によって変わるが、打球線と足線のなす角度は15〜45度程度である。これより小さくては腰の回転が生きず、またラケットの先が遅れて右利きの場合には左に切れてしまう。これより大きすぎると、打球線と体重の移動方向が違いすぎて体重の移動が十分に生かせなくなり、また足線の方向に対する腰のひねり角が大きくなるため腰に負担がかかる。極端な場合には引っ張り切れなくなる。
 だから、ゲーム中のバックハンドの軸足の位置は、引っ張る方向の打球線に対して足線が40〜45度程度になるように決めるのがいい。そうすれば、腰の回転を十分に使えば引っ張れるし、腰の回転を抑えて打点をやや後ろ気味にすれば流すこともできる。前足と球線との距離は、ヘソの位置で打つ場合でもラケットの長さ程度とやや短めである。こうすることで引っ張る方向と流す方向の双方に打点を持てるのは、フォアハンドのクローズドスタンスの場合と同じである。
 バックハンドではひっぱることしかできない後衛が時々いるが、これは、前足と球線との距離が長すぎて、引っ張る打点しか採れない場合がほとんどである。バックハンドの球威はどうしてもフォアハンドには及ばない。使用頻度も少ないが、それだけにバックで打つ時は、そのポイントの節目となりがちである。ほぼ同じスタンスから上記の二方向に打てるように、しっかり練習しておく必要がある。

バックの練習はバッティングセンターで

「バックが苦手」という人が少なくない。バックハンドのときの軸足を軸とする動きをしたことがないのが原因である。軸足の決め方、前足を決める位置とタイミング、体重移動と腰の回転のバランス、その他フォアハンドの場合には、ボール(石)投げなどを通して自然に習得しているものを習得しなければならないからである。バックハンドで徹底的に打ち込めばやがて身につくのだが、早く習得したいのならバッティングセンターに通うのが一つの方法である。それも、右利きなら左打席、左利きなら右打席で打つのである。遅い球から始めて、一塁線(左利きの場合は三塁線)にライナー性の当たりが飛ぶようになったらもう大丈夫である。慣れてきたら速い球にも挑戦すれば、バック側に厳しいボールを打たれたときにも何とか対応できるようになる。

2.ネットプレー

 ネットプレーの基本の構えは、「肩の線をネットに平行に」「スタンスは肩幅まで」である。前者は人により、状況により多少変化してよいが、後者のスタンスが広くなりすぎると素早い動きができなくなる。

ボレーのバックスイングは腰の動きと上体のひねりを利用する

 初めてボレーを教わるときに必ず言われるのが「ラケットを振るな」である。振ろうとするとどうしてもバックスイングが大きくなり、速い球に遅れてしまうからである。だから初心者のボレーは、肩の線がネットに平行のままで、打球の瞬間にラケットをちょっと出すだけなのでどうしても球足が短くなる。
 上級になるにつれて球足の長い、速いボレーを要求されるようになるが、相手打球も速いので、当然バックスイングを大きくするわけにはいかない。どうすればいいのか。フォアハンドにしろバックハンドにしろ、多少なりとも移動してボレーする場合には、足の動きに合わせてまず腰が移動方向に回転するはずである。この回転に協調させて肩とラケットを回転するに任せればいい。これにより、腕や肩を使ってバックスイングするまでもなく、自然にラケットは後ろに引かれることになる。その結果、肩や肘や腕の動きはラケットを前に押し出すだけになるので、速い球にも遅れることがない。逆に、片方の肩が引かれている分だけ後ろでも面が作れるようになり、遅れにくくなる。
 特にバックハンドではこのように回転させて逆肩を引かないといいボレーはできないし、守備範囲が狭くなる。ぎりぎりまで足を使って追いかけて、それでも遠いボールに対しては、利き手側の足を大きく踏み出して、相手に背中を見せながらラケットを伸ばしてボールを捉える。一方、フォアハンドでは守備範囲にそう影響しないように見えるので、いつまでも肩の線がネットに平行なままのボレーを続けてしまう。しかし、前にも書いたように、肩を引いた方が後方に面が作れるため、守備範囲は広くなるのである。
 体からボールまでの距離に関係なく、まず足から動かすべきなのはこのためである。足を動かさなければ、肩を引くこともバックスイングもできないからである。

引っ張りたければ肩と腕を残せ

 ストレートのボールをボレーしてポイントを挙げるには、球速を殺して正面に落とすか、引っ張ってクロス方向に角度をつけるのが有効である。引っ張ろうとするとグラウンドストロークの癖で、つい肩を回したくなるが、これは逆効果である。
 肩を回そうとすると、どうしても腕から先、従ってラケットの先が遅れて出てくることになる。グラウンドストロークではこの遅れをバネにしてボールに力を与え、引っ張るのだが、ボレーでこれを行うと、引っ張る方向に面のできる位置がかなり前方になってしまう。それだけ速い球に対応するのが困難になる。腕を振り回すのも同様である。もう一つの問題は、相手の球線とこちらのラケット面の描く線との交わる幅が短くなってしまう点にある。相手の打球にきっちりとタイミングが合えばいいが、ちょっとでも外れるとチップや空振りとなる。
 引っ張りたければ肩と腕を残し、肘から先を使って、相手の球線の上をラケット面が動くように押し出せばいい。腕は、回すのではなく相手後衛に向かって伸ばすように使う。こうすれば相手の球威に押されることもないし、タイミングが多少ずれても大丈夫である。これでラケット面が球線に対して垂直なら相手正面にボールが返るが、少しでも鋭角になっていれば反射の法則でボールは自然に引っ張る方向に跳ね返る。フォアハンドとバックハンドでは、肩の動きや鋭角面の作り方は多少異なるが、ここで述べた原則は共通である。

安定したスマッシュは安定したスローイングに似る

 スマッシュのフォームは、野球のスローイングに近い。もっとも安心して見られるスマッシュは、軸足(右利きでは右足)が決まり、腰が安定していて、軸足から前足へのスムーズな体重移動(相手打球を打ち返す関係でスローイングに比べて移動距離は短い)と共にインパクトを迎える。インパクトからフォロースルーにかけてはスローイングと多少異なり、上体を前に折り曲げず、残したままにする。そうしないと、ボレーと同じくラケット面が遅れてバックアウトが多くなる。遠くに投げるスローイングとの違いである。最高のスマッシュの直後には、前足のほぼ真上に頭があるだろう。
 これを実現するのは、速い(注意‥「早い」ではない!)下がり足と打点に近づいたときの細かなフットワークによる微調整である。下がりながら、あるいはジャンプしてのスマッシュは、あくまで最善のスマッシュができない場合の臨機応変の応用動作であり、それしか手がない時を除いては用いるべきではない。下がり足をいい加減にしてのジャンプスマッシュに至っては論外である。
(続く)


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伊藤眞人:itomasa@t.soka.ac.jp