原則を大切に(2)

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はじめに−六部からが大学のテニス

 昨年度は、春秋共に「あと一勝」に泣き、優勝を逃した。戦力的にも充実していただけに残念に思っている人もいるかも知れない。
 しかし、試合内容を思い返してほしい。七部では、基本的に後衛のストローク力で圧倒して勝つことができたのが、六部になると後衛の戦いではせいぜい互角でしかないのではないか?また七部では、上位校でも一組くらいは実力的に劣るペアが出てきて、確実に勝ち星を稼げたのが、六部の上位校のメンバーにはほとんど穴がないのではないか?
 昨年のクラブでは、五ペアを巡る競争が特に激しかったが、六部(およびそれ以上の部)の上位校はどこでも同じなのである。少なくともうちの大学で五ペアに入れる力がないと、他の大学でもリーグ戦には出してもらえないのである。
 インターハイで三回戦くらいまで勝ち上がれるレベルの選手を集めてくれば、それだけで七部までは容易に勝てるであろう。しかし、六部からはそうは行かなくなる。
 五ペアを巡る争いの中で、高校までに身につけたテニススタイルを否応なしに一度脱ぎ捨てて、大学での戦いに勝つための新しいテニススタイルを創り上げることを求められる。これが六部から上の大学のソフトテニスクラブでは日常的に起こっているのである。冒頭に「六部から上が大学のテニス」と書いたのは、このことを指している。そして、この競争と創造の経験の歴代の積み重ねが、その大学の「伝統」と呼ばれるものである。創価大学ソフトテニス部も、内部にこの厳しい競争の環境を意識的に構築し、常に上を目指す努力をすることを通じて、内外に誇れる「大学のソフトテニス」の伝統を築き上げていってほしいと思う。

2.ネットプレー(続き)

 昨年に引き続いてネットプレーの話である。ルール改正は近いし、改正前でも「後衛がネットプレーをしてはいけない」というルールはない。「前衛だけの問題」と思わず、後衛の人も真剣に読んで、考えてほしい。テニスの理想はオールラウンドプレーヤである。

まずは復習から

 以下は、日頃注意しているポイントであるが、

 (問題1)中学校あたりで「スタンスはラケットの長さが基準」と教わるせいか、ネットに近づいてもスタンスを広く取って構えている場合が少なくない。ネットプレーにおいて、スタンスが広いのは非常に具合が悪いが、それはなぜか?

 (問題2)「ネットに付いたら、ラケット面をネットの上に」と中学時代から厳しく指導されているはずである。実際のプレー中には、ラケット面がネットより下にあってもいい時と、あってはいけない時があり、いけないときに下にあると、上級になればなるほど具合が悪くなる。下にあってはいけない時はいつで、具合が悪いのはなぜか?

 (問題3)ネットの高さぎりぎりの球を処理するときには、「できるだけネットのすぐ近くで」「面を作って合わせ、決して面を押してはいけない。」これはなぜか?

バックスマッシュはハイボレーに毛が生えたもの

 やむなくバックハンドでスマッシュしなければいけないときは、たいてい余裕がないときである。だから、打球のスピードで得点につなげようとすることはない。スマッシュできる程度に相手の打球が遅いから、その分だけバックスイングとフォロースルーを大きくして、打球にスピードをつける。一本で決まるかどうかは、スピードではなく、いかに相手後衛と前衛の守備範囲の隙をつくことができるか、すなわちコース・コントロール次第である。だから、できるだけ素早くボールに近づくことが肝要である。

中ロブの上げ損ねはスマッシュするな

 相手後衛が攻撃的な中ロブを上げてくる。ところがちょっと低すぎて十分届く高さに来た。待ってましたと振りかぶって前衛がスマッシュする。実戦でしばしば見かけるシーンだが、さてその結末は?
 運が良ければポイントになるが、それよりも、チップ、フレームショット(ガシャ)、バックアウトになる場合の方が多い。
 スマッシュを武器としていた十八、十九期の前衛達に、コーチ就任当初、口を酸っぱくして理由を説明して戒めたのだが、今の現役陣には理由がわかるだろうか?

ヘソ球はバックで取れ

 体の正面に来るネットぎりぎりの球は「ヘソ球」と呼ばれ、特に長身の前衛ほど、もっとも処理しづらい球の一つである。中学時代には、「腰を落としてラケット面でボールをのぞくようにして取れ」とよく教わる。ボールから逃げない習慣を付けるのによいのと、初級者に指導し易い動作だからである。ところが、大学に入ってもなお中学時代の教えを守っているプレーヤをよく見かける。しかし、首尾良く返せる場合はめったにないようである。なぜか?
 中学時代は、背もそれほど高くないし、何よりも相手の打点も低く、打球もそれほど速くないから、腰を落としてからでも、目でボールを追う余裕が十分にある。だからボレーできる。ところが、高校大学と進むにつれて相手の打点は高く、打球は速くなる。腰を落としてしゃがもうとしているうちにボールが来てしまう。この動作では、目は上から下に、つまりボールが相対的に下から上に移動するようにの飛んでくる方向と直角に移動するから、ボールの飛跡を目で正確にとらえるのは極めて困難である(人間の目は左右についているので、左右の動きをとらえるのは得意だが、上下の動き、特に下から上への動きをとらえるのは苦手である。詳しい理由は体育の先生に尋ねてみるとよい)。
 それなら、と得意のフォアに回り込もうとすると、これは面を作るのが非常に難しい。バトミントンでは、スマッシュやドライブでは相手の利き腕の付け根を狙うのが定跡になっているくらい、フォア側の肩口には面を作りにくい。そんな場所にボールを持っていくことになるからである。
 だからこのような場合には、(右利きの場合)まず体重を右足にかけ、左肩をやや引きながらバック側に回り込み、目をボールに近づけるために、ボクシングのスウェーバックの要領で、膝を前に折るように曲げて状態を後ろに反らせるようにするとよい。そうすると、左足が自然に後ろに行くかも知れないがそれならそれでよい。
 スウェーバックの利点はもう一つある。肩が自然に後ろに下がるので、面を作る場所が後ろになる。つまりボールに合わせるための時間の余裕が少しでも余計にできるのである。取れるか取れないかの瀬戸際では、たとえ百分の数秒であっても、貴重な貴重な時間である。

ローボレー、まずは足からスタートし、肩はネットと九十度

 ローボレーは、ネット(したがって相手)から遠い分だけ守備範囲を広くできるはずであるし、また広くしないといけない。また、ネットの高さより下で、面を横にして取るのだから、グラウンドストロークと同じようにいわゆる平行スタンスをとり、肩の線をネットと直角にするのが基本である。広い範囲でこれを実現しようとすると、(普通のボレーも同じであるが)ラケット面だけが先にボールを追いかけたのでは具合が悪い。まず体を動かし、それによってラケット面を運ぶのが楽であるし、合理的でもある。
 そのための第一歩は、相手の打球のコースがわかり次第、そちらに近い方の足を踏み替えることである(図1B)。これにより体重が少し反対足にかかるから、次にその反動を利用して反対足を蹴ってボール方向に体を回転させ、重心をボール方向の足よりもボール側に移動する(これが迅速なスタートの鉄則)。蹴った反対足は、ボール側の足の前方、両足の位置が相手打球とほぼ平行になるようにする(図1C)。これだけでラケットはバックスイングしたい方向に自然に動いているはず。少し動かすだけでバックスイングができることになる。



 ここまで来れば、あとはむしろグラウンドストロークと同じで、最初ボール側にあった足(ネットから遠くなっているはず)が軸足なので、小走りでこれをできるだけ球線にボールに近いところまで(ラケット一本程度の距離)運べば(図1D以下)、安定したローボレーができる。  

落としどころ−前衛の後方に向けてプレーせよ

 ネットプレーでは、余裕があればポイントにつながるコースに向けて返球することが求められる。初級者では、後衛のいない方向に返球するように指導される。これは、初級者の前衛は相手前衛のネットプレーのようなとっさの事態に十分な対応ができないから有効なのであって、十分に経験を積んだ大学の前衛の場合には成り立たない。ネットから離れてのスマッシュやローボレーを機械的に相手後衛のいない方向(当然前衛がいる)に返球したりすると、こちらが体勢を立て直すまもなくボレーされて逆に相手に得点される場合も少なくない。
 余裕のない場合には、打球を相手前衛に触らせてはならない。たとえ相手後衛に拾われる心配があるとしても、相手前衛の届かない(もし手を伸ばしたらチップするような)コースをつくべきである。そうすれば多少なりとも相手後衛を動かすことができるし、打点も下がるので逆襲を食らいにくい。何よりも、こちらが体勢を立て直す時間の余裕ができるのである。もし飛んだコースが良かったり、相手後衛の対応が遅れたりすると、相手の次の返球を余裕を持ってポイントに結び付けることもできる。
 余裕があるときはどうするか。状況にもよるが、多くの場合にもっとも確実なのは、相手前衛の背中の後方約1mのところを通すことである(バトミントンのダブルスでも、ネットに詰めた相手の後方を攻めるのがセオリーである)。これなら相手前衛は後ろ向きにならないとリターンできないから、とっさに対応することはほとんど不可能である。ほとんどの陣形ではこのコースを通すと、相手後衛から遠ざかる方向に打球が飛ぶはずである(確かめてみてほしい)。打球に勢いがあれば、返球は非常に困難である。
 サイドラインに向けて角度のある返球が可能な場合には、もう一つ有効なコースがある。ワンバウンドしてから、大きくサイドラインの外へと弾む返球である。相手後衛は、どうしても自分のいないサイドをカバーしたくなるので、その逆をつくコースは以外に守れない場合が多い。ただし、無理に角度をつけようとするとワンバウンドする前にサイドラインの外に出てしまうので、十分な練習と経験が必要である。

少し横道

 ネットプレーの話が一段落したので、次に行く前に一息ついて、格言めいた言葉を思いつくままに記してみよう。

勝利への道はコート内のプレーにあり 後衛がコートの中に入ってきて、高い打点で打つ打球は、相手前衛にとっても後衛にとっても脅威である。とにかく対応する時間が短いから守備範囲が狭くなる。したがって前衛は思い切ったポジションが取りにくい。前衛のポジションが甘くなると後衛の守備範囲が広くなり、逆襲に転じ難くなる。後衛は、常にコート内で高い打点で打つ事を目指すべきである。ノーバウンドで球足の長いハイボレーやをすれば、それだけで得点にもつながる(市川伸一「弥生道」第20号57ページ, 1981年)。逆に言えば、「相手はコート外に追い出せ」である。常に相手後衛をコート外でプレーさせることができれば、それだけで相手の勝利をかなり阻むことができる。

前進は素早く大きく、後退は素早く小さく 上とも関係するが、前に進むなら、大きく前進して、できるだけ高い打点でプレーするのが相手にとって脅威を与える。だから後退する距離は必要最小限でよいのだが、距離が小さいからといってノンビリするのではなく、できるだけ迅速に後退して軸足をふんばり、余裕をもってプレーすることが相手に脅威を与えるのである。

速球を活かす緩球、緩球を活かす速球 これは野球の投手の格言であるが、テニスでも同様である。ボールを打つときには、最終的には相手打球にリズムを合わせなくてはいけないのだから、少々スピードがあっても速球ばかりの単調な配球では、容易にリズムを合わせることができる。テニスの中でこの種のプレーが特に有効なのはセットプレー、すなわちファーストサービスとセカンドレシーブの際であり、ときおり緩球を混ぜることに相手のリズムを狂わせ、さらには以後の速球をより有効に活かすことが可能になる。もちろん、ラリー中でも意識的に緩急を使い分けることにより、相手後衛だけでなく前衛も幻惑することができる場合がある。同格の相手と戦うときに、自分のもっとも速い球を後半の勝負どころに備えて温存しながらプレーする後衛は、競り合いにのゲームになるほど力を出してくる怖い相手である。

打ち合いに負けないのが後衛の仕事、勝つのが前衛の仕事 単純に打ち合って打ち勝てるなら、勝つのが当たり前。しかしたいていの相手は、力量の差は紙一重である。そんな相手に打って勝とうとすると、無理をしたり力みが出てかえって自分の球が打てなくなる。だから後衛は、相手が思い切って打ってくるときには、「打ち負けないこと」だけを念頭に置いてプレーすればよい。そんな相手から勝利を得るには、相手の打球をネット際で止め、前衛を気にし始めたら自分のサイドに誘い、相手後衛に好きなように打たせないようにする前衛の仕事である。そして相手の打球が甘くなったら、後衛が攻めればよい。

  後衛を迷わす50センチ幅の魔力 相手前衛がきっちりとサイドを守ってくれると、後衛にとってこれほど楽なことはない。相手後衛側に打てば多少コースが甘くなっても通るから、思い切って相手後衛に向けて打てるからである。そこに幅50センチの隙間があるとどうだろうか?その分だけ、後衛側の打てる幅が狭くなっていてやりにくい。また、その隙間に打てばポイントが取れるかもしれない。序盤で実際に1、2本サイドを通せたりすると、さらに思いが強くなる。ところが、50センチの幅は余裕があるときでないと狙って打てるものではない。中盤になってそこに誘われて止められでもすると、どうしていいかわからなくなる。余裕がなくなり、ミスを重ねることにもなる。前衛は、誘わなければ守りきれない50センチの隙間を自分のサイドに確保し、それを常に相手後衛に見せるようなポジションを取るべきである。


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伊藤眞人:itomasa@t.soka.ac.jp