国際ルール

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はじめに−国際ルールで何が変わるか?

 昨年秋から国際ルールが学連にも導入された。前衛、後衛の区別がほとんどなくなり、従来前衛だったプレーヤーもサービスやストロークを行う機会が増えたことになる上に、ローボレーをしなければならない場面も増えてきた。しかし、新たな負担が前衛にだけかかってくると考えるのは皮相的な見方である。ストロークを得意とする元後衛にとっても、ポジションの取り方や配球を根本的に考え直す必要がある。一つは、自分のパートナーがネットについていない状態でのプレーである。当然、従来よりも守備範囲が広くなり、堪え忍ぶべき状況が多くなる。
 ここまで述べてきたことは、お互い様とはいえ、従来より不利になる状況ばかり挙げてきたが、決してそれだけではない。ストロークプレーヤーにとっては、新しい可能性が開かれる好機でもある。相手のフォーメーションが変わるのだから、ストロークにおけるプレーシングの戦術が変わるのは当然である。最初から雁行陣で始まる場合には考えられなかった配球が、有効な戦術として使えるようになるはずである。ネットプレーヤーにとってはどうか?ネットを取るということは、それだけ有利な体勢を取ることである。そこでただ立っているのは、せっかくのアドバンテージをみすみす取り逃すことにつながる。このことを肝に銘じて、ネットを取ったら厳しいポジション取りやストロークプレーヤー側へのポーチ、自分の側にに故意に隙を見せて誘いのポーチ、あるいは二段モーションと積極的に攻めて、どんどん相手にプレッシャーをかけるよう心がけるべきである。
 そして、自分がネットを取るにしても、パートナーにネットを取らせるにしても、グラウンド・ストロークで“負けない”ことが重要である。このことは変わらない。素早く動き、高い打点で、体重を有効に使って楽に深い球を打つこと、テニスの基本でありながら、従来はもっぱら後衛にだけ求められてきたことが、これからはあらゆるプレーヤーにとって重要になるのである。
 逆に言えば、相手にネットを取らせないことが重要である。もっとも有効なのは、深い球を打つと共に横に動かすことである。横に動かされると、それだけネットにつく準備が遅れる上に返球をコントロールすることが難しくなり、たとえネットを取ろうとしても、有利な状況を作りにくいのである。特にサイドライン側に動かされると、ロブを上げて時間を稼がない限り、ネットに向かうのは自殺行為に等しい。
 両チーム共に最初からネットを取っていないのだから、ネットを巡るこのせめぎ合いが、サービス後の最初の戦いである。

1.サービス

○サービスはクロスに

 従来は、特に後衛側ではなるべくミドル側にプレーシングするのが基本的なセオリーだった。相手前衛にネットを取られるとミドルは攻めにくいので、先にミドルに寄せて、次にクロスに動かすという配球が有効だったからである。国際ルールでは、少し事情が異なる。サービスは、両サイド共にクロス側に打つことを基本とすべきである。その理由は次の通りである。

○弾まないセカンドサービスは無意味

 従来セカンドサービスとして使われていたアンダーカットの弾まないセカンドサービスは、その意義をほぼ失ったと言っていいだろう(これを疑う人は、なぜ弾まないセカンドサービスが旧ルールで有利だったのかを復習してほしい)。セカンドサービスは、可能な限り球足を長くして、ネットから離れた位置で相手が打球するように工夫すべきである。  最初に述べたように、ネットを巡るせめぎ合いがサービス後の最初の戦いであるから、相手にネットを取りやすくさせるサービスは、みすみす最初の戦いで勝ちを譲るようなものである。

○ロブでネットを取らせるな

 相手のネットプレーヤー側にいい第1サービスが入った場合、従来なら高いロブを上げてネットを取りにいくという作戦を採ることができた。前衛にとっては、たとえストロークプレーで相手にイニシアチブを与えてもネットを取ることが重要だったし、後衛はストロークプレーでのイニシアチブと引換に相手前衛にこれを許してきた。国際ルールではネットを取ることが従来以上に重要になる。言い換えれば、サービス側のプレーヤーは、相手がロブでネットを取りに来ることを許してはならない。そのための最善の策は、このロブをトップ打ちではなくスマッシュで返球することであろう。(ネットを取るためのロブを許してはならないのはサービスの場合だけでなく、相手が後方で平行陣になっている時も同様である。)
 以上のことを別にすれば、サービスに対する心構えや戦術に、大きな違いはない。

2.レシーブ

○レシーブゲームではネットが取れる

 レシーブ時のいちばん大きな違いは、相手前衛がネットにいないことである。したがって、レシーブ時に取り得る戦術の幅が広がり、その結果、レシーブキープのゲームが多くなることが予想される。昨年秋のリーグでは、これが必ずしも顕著ではなかったが、それは正クロスを基礎とする従来の戦術に対するこだわりから脱し切れていなかったためだろう。
 もう一つ大きな違いは、レシーバーのパートナーにとっては、レシーブ時がネットを取る最大のチャンスだという点である。ストロークプレーヤーとネットプレーヤーの分業へのこだわりを脱することの意義がここにある。分業にこだわることで、ネットを取るチャンスの半分をみすみす逃すことになるからである。以下、パートナーがネットを取ることを前提として話を進めることにする。

○ミドルよりストレートを狙え

 重要なことは、第1第2サービスに限らず、狙うコースを決めておくということである。決して、「コート内に入ればいいのだから」と漫然と返球してはならない。決め方は、相手のネットプレーヤー側ということであってもいい。いずれにしても、基本的な狙いがパートナーにわかっていれば、ネットを取るときにどこに向かって動けばいいかが自ずと明らかになり、より時間的余裕をもって、有利な体勢でネットプレーに向かうことができる。
 では、コースを狙う場合にはどのコースが得策だろうか?一つの狙いは「相手にとってのミドル」すなわち相手プレーヤーの守備範囲が重なる部分である。しかし相手側も当然それを警戒し、守備範囲の約束ごとを決めてあるから、意表をつくのは容易ではない。残る2つのコースであるクロスとストレートではどちらがいいだろうか?これはレシーブを返球する立場に立って考えると明らかになる。クロス側にいいレシーブが返ってきても、これをクロスに返球するのは、飛んできた方向に返すのだからそれほど困難はない。また、コースを変えてストレートに返球することも可能である。一方、いいレシーブがストレートに来た場合はどうか。ストレートに返球するのは容易であるが、クロス側に引っ張って好球を打つのは困難である。ネットを取りにいくレシーブ側のパートナーから見れば、相手の返球のコースが限られるストレートへのレシーブのほうが、後の作戦が立て易いはずである。単純にネットを取るために動く距離だけを考えると、クロスに返球するほうが動く距離が短いので楽なようだが、ストレートに打つとわかってさえいれば、それに対応したネットのポジションを取るだけの時間は十分にある。楽にポイントを取るための労を惜しんではならない。

○ネットを取りに来たらストレートを攻めよ

 ファーストサービスでは、サーバーのパートナーがしばしばネットを取りに来るが、ネット前にポジションを取るだけの時間は当然ながらない。ボールが来ればローボレーをするしかない。とすれば、漫然とクロスに返球して楽にネットを取らせるべきではない。
 それではどこを攻めればいいか。ついついミドルを狙いたくなる。ここで、この攻め球はもともとポイントを取るためではなく、相手有利にさせないためであることを思い出すべきである。相手は当然返球できるものと考えるべきである。返球後の相手の体勢は、どちらを狙ったほうがレシーブ側に都合がよくなるだろうか?ストレート側を狙って、ネットプレーヤーをコートの端に追いやるほうがいいに決まっている。この時、レシーブ側のパートナーの動きが重要になる。ストレートを狙うことを見越してネット近くの厳しいポジションを取り、相手のローボレーが少しでもクロス側に甘くなれば、すかさずハイボレーで逆襲できるように備えるべきである。そうすれば、レシーバーの守備範囲も限られてくるので、次の配球を考えながらプレーすることが可能になる。さらには、ストレートへのローボレーに対してポーチを仕掛けるという奇襲戦法も採れるようになる。

○狙いを変えるときはパートナーに伝えよ

 こうしてストレートを相手に意識させておけば、ここ一本というときにミドルを易々と抜いて優位に立つことも、サーバーにミドルを意識させておき、意表をついてクロスを攻めることもできるようになる。この時に、レシーバーのパートナーがそれを予め知っていれば、素早く的確なポジションを取り、相手の返球を得点に結び付けることができる。この意思疎通をきちんと行うことがパートナーシップであり、コンビネーションの妙である。

3.レシーブ後の展開、フォーメーション

○ストレート展開の重要性

 以上見てきたように、国際ルールでのゲームプレイは、 というふうに展開がするのが一般的になるであろう。そうなると、当然ながらストレート展開でのプレーが多くなる。ストロークプレーヤーはストレート展開でのラリーに慣れ、作戦を工夫すべきであり、ネットプレーヤーはストレートでのポジション取りに慣れ、モーションやその他の戦略を考えるべきである。

○多様化するフォーメーション

 プレーが後方平行陣から始まることで、従来はもっぱら雁行陣に終始したフォーメーションが多様なものになる。雁行陣の他に後方平行陣、さらには前方平行陣を採る状況が増えてくるだろう。それぞれの陣型の特徴はここでは省略するが、基本的な戦術は「相手を後方平行陣に保ちつつ、味方側は雁行陣さらには前方平行陣へと移行する」ということである。
 フォーメーションの多様化に伴って、気をつけるべきことが一つある。それは、同じ雁行陣であっても相手の陣型が雁行陣か後方平行陣かあるいは前方平行陣かによって、特にネットプレーヤーの取るべきポジションや守りのポイントが違って来るという点である。
 相手が後方平行陣の場合には、基本的に自分のパートナーがラリーで優位に立っているはずである。相手は何とかネットを取ろうと考えているであろう。ストロークプレーヤーは、この優位を保つためにも、できるだけ深い球で相手(特にネットプレーヤー)を横に動かすことを心がけるべきである。それでもネットを取るためには、相手は浮き球で時間を稼ぐしかない。したがって、こちらのネットプレーヤーはやや厳しいポジションを取って相手の返球のコースを限定しながら、常に自分の頭上の浮き球を警戒しているべきである。相手には点を取るすべがないのだから、あせってポーチに行く必要はない。
 相手が前方平行陣の場合は、基本的にこちらの陣型が崩れている場合だから、パートナーがシュートボールを打とうとする場合のポジション取りの基本は、パートナーが取りにくい場所をカバーすることにある。ネットからやや離れることにより、背中を通るボレーを防ぎ、サービスラインの約1m前方の、広い範囲を守れるような位置を占め、相手のプレーにすぐ対応できる体勢を取るべきである。このときに自分のサイドを警戒し過ぎるとミドル側がガラ空きになり、パートナーに大きな負担を強いる結果になる。

ローボレーについて

 技術的なことは昨年記した。とりあえず一言だけつけ加えておく。「絶対に、ネットプレーヤーに向かってローボレーしてはいけない。」このことは肝に銘じておくべきである。

「終わり」ではないが....

 国際ルール導入にともなって、ネットプレーヤーもストロークプレーヤーも、新たに身につける必要のある技術があるのだが、これは反復練習で身につけるしかない。その時に注意してほしいことは、「プレーシングの重視」を心がけることである。プレーシングとは、打ち易い方向に打つのではなく、予め打つと決めた方向に打つことである。これは余分の肉体的運動を伴うが、ここで楽をしてはいけない。楽をしていては簡単にポイントを取れないし、ゲームにも勝てない。プレーシングの技術を伴ったパワーだけが試合で生きてくるのである。
 コントロールされたパワーだけが役に立つのであり、コントロールできないパワーが無益どころか危険ですらあるのは、スポーツでも世間でも同じである。

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伊藤眞人:itomasa@t.soka.ac.jp