レシーブキープをめざして


レシーブキープのゲームがなぜ少ないのか

 現在のルールが実施されてからすでに五年が経過した。ずっと試合を見続けているが、当初予想されていたほどにはレシーブ側有利の試合展開にはなっていない。なぜだろうか。
 旧ルールでは、サービス側の前衛がネットについてポジションを取り、相手を圧迫しながら、第一サービスを打つことができた。そして、後衛側のサービスでは「第一サビス→ポーチボレー」あるいは「第一サービス→トップ打ち→スマッシュ」というセットプレーで、前衛側のサービスでは「第一サービス→ミドルまたはサイドパス」というセットプレーで、ある程度確実に得点を稼ぐことができた。また、これらのセットプレーを牽制に使って、レシーブミスを誘うこともできた。
 現行のルールでは、前衛はベースラインからダッシュするので、このようなセットプレーは必然的に姿を消した。ネットダッシュそのものがハンディとなることから、トスで勝ったらレシーブを選択するのが当然のようになった。しかし、それにしては、旧ルール時代のサービスキープほどには、レシーブキープのゲームが増えているようには思えない。旧ルールのサービスキープでそうだったように、現行のルールではレシーブゲームをある程度確実にキープすることができれば、相手のサービスゲームを一つ破るだけで勝利への途が開ける。九ゲームの短いソフトテニスの試合で、地力が対等かやや勝る相手に勝つ、言い換えれば番狂わせを起こすための作戦が立てやすくなる。そのためには、レシーブゲームからのセットプレーを考案し、実践できるように練習を積む必要がある。

相手後衛がサーバーの時のセットプレー

 レシーブから考えられるセットプレーの一例を示す。まず後衛サイドの第一サービスに対するレシーブからの例である。
 ローボレー・ポーチ‥後衛は、ネットに突進するサービス側前衛の左手側に、手を伸ばせば届く程度の位置を狙って返球する^(以下、点線はボールの飛ぶ方向、実線はプレーヤーの移動する方向である)。ローボレーをさせるのが目的であるから、普通の球速で十分である。レシーブ側前衛は、通常のように立ち止まらずまっすぐネットに突進する。この時点で、サービスラインより一〜二m内側に入っている。
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 サービス側前衛がローボレーをする瞬間に向きを変え、ポーチボレーの要領で相手前衛と正対する位置でネットを取る方向に進む。相手のローボレーの方向に合わせて多少の修正を行うが、基本的に、正面〜右手側で、相手前衛の左手側に向けてネット際で力強くボレーする_。相手は届かないか、届いても左側コート外に弾くのが精いっぱいである。レシーブ側前衛のネットダッシュが重要であるが、瞬発力と持久力を備えた大学の前衛であればこの程度の動きはできるはずである。
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 ゲーム中に頻繁に使っていると、読まれて逆クロスにローボレーされる恐れがないわけではないので、レシーブした後衛は、その後ややミドル寄りにポジションを移動する。
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 第一サービスをクロス側に厳しく打たれたときには、レシーブ側の後衛がカバーに動けないのではないかと気になるかも知れないが、`を見れば分かるように、この時相手側前衛にとってローボレーを返すのにもっとも楽なのはストレート方向であり、このボールをローボレーで逆クロスに返球するのは、試してみればわかるが、意外に難しい。しかも、サービス側前衛の視線はレシーブ打球を追うので、レシーブ側前衛の動きが視界に入りにくい。したがって構わずポーチに跳び出すのが原則である。
 後衛のレシーブが相手前衛の右手側に飛んだときは、このプレーは使わない方がいい。また、正面に飛んだ打球を相手前衛が左手側でボレーしようとした場合(上手な前衛はこうする)にも、使わない方がいい。逆に、正面のローボレーを右手側で処理しようとしたら、迷わず跳び出すべきである。右手側に回しながら逆クロスにボレーするのは普通は難しいからである。
 レシーブ側の後衛が気をつけることは、このプレーに関する限り、サイドライン際を狙わないほうが有効であるという点である。なぜなら、サイドライン際からストレート方向へのローボレーをポーチするのには味方前衛の移動距離が大きくなる上に、相手前衛がいるために得点できるコースへのボレーが難しくなるからである。この点にさえ気をつければ、このプレーはセカンドレシーブでネットに突進してくる無謀なサービス側前衛にも使うことができる。
 後衛側プレーヤーがボレーに多少の自信があれば、前衛サイドのレシーブで同じプレーを使うこともできる。しかし、練習量を考えれば、ゲームポイントなど相手を精神的にも追い込んだ場合の奇襲として使うのが望ましい。

 セカンドレシーブからの中ロブ‥これは旧ルールではよく使われていたが、現行ルールではサービス側前衛が始めは後ろに立っていることもあって、意外に使われない。しかし、無謀にもネットに突進してくる前衛にシュートボールを意識させておけば、意外に有効である。相手前衛が触ったとしても頭の後ろで上向きの死んだボレーになり易いし、触れなかった場合は相手後衛のスタートが遅れやすいこともあって、次の返球は左手側からのロブになる場合が多い。そうだとすればこれをワンバウンドさせて処理するのはもったいない話である。後衛もレシーブ後後退せず、どこにロブが上がろうが二人のうちどちらかがスマッシュで打ち取る態勢を取ればいいa。相手後衛が左利きの場合には(そうでなくても)、前衛側のレシーブでも同様のセットプレーが可能である。
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 「動いた相手の背中をねらえ」は、バトミントンのダブルスの攻撃の定石である。

相手前衛がサーバーの時のセットプレー

 この場合は、サーバーがそのままネットダッシュして来るのでなければ、これまで述べてきた卓球の「三球攻撃」に相当するようなセットプレーは存在しない。どちら側からのレシーブであっても、レシーブ側の配球の原則は、シュートボールで相手前衛を左右に動かして、ネットダッシュのタイミングを少しでも遅らせることである。決して正面に打ってはいけない。そのうえで、相手がどんな球でネットダッシュをして来るかによって、対応策を決めておく。それがセットプレーになる。
 シュートボールを打ってからネットを取りに来る場合‥この場合は、とにかく自軍の後衛側にローボレーしやすいほうにシュートボールを送ってローボレーをさせ、それを前衛がポーチして決める。後衛側にローボレーしやすいのは、相手前衛がストレートに打ってきたときはサイドライン側b、クロスに打ってきたときにはミドル側であるc。
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 クロスの場合のポーチボレーのコースを示すd。落下点は短くサービスラインより手前を狙い、角度をつけてワンバウンド後コート外に出るように打てば、相手はまず返球不能である。
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 いずれの場合にも、触らせて取ることが原則なので、後衛は、相手前衛が横に動かなくては触れないほど遠いコースに打ってはいけない。こちら側の前衛ははじめからネットを取っているので、動きは少なくていい。ただ、はじめからあまり厳しいポジションに立つと相手がシュートボールを打てないので、頭越しのロブを半分警戒するかのように、普段より体半分サイド寄りで、少し後ろ気味にするとよい。相手がネットダッシュしてきたら、少し斜め前に動くが、「ミドルは少し空けておく」。あとは、スタートダッシュのタイミングが遅すぎさえしなければ、ミドルへのボールは体の正面で、後衛側へのボールは右手側でとらえることができる。
 逆側のクロス、ストレート展開になる場合は少ないと思うが、考え方は同様である。

 ロブを打ってからネットを取りに来る場合‥この場合にも、シュートボールで横に移動させてからであれば、それほどいいロブは打てないのが普通である。また、横に動いた分だけネットダッシュへのスタートが遅れるはずである。この点を利用しない手はない。ワンバウンドさせることなく打ち返すスマッシュが、狙うべきセットプレーである。スマッシュするのは前衛でも後衛でも構わない。近いほうのプレーヤーがやるのが原則である。ここで心がけることは、相手がロブを上げ損ねたのでない限り、一本目のスマッシュで決める必要はない、とにかく必ずスマッシュをする、それも前衛側にするという点である。一本目は、ネットダッシュの途中にある前衛に、ネットの下、体の横で止めさせることだけを考えればいい。ここでは、相手前衛を一歩動かすことができればそのほうがいい。二歩動かす必要はない。これがうまくいけば、次はたいてい一本目よりも決めやすいボールが返ってくる。二人とも二本目のスマッシュに備えてコート内に入ってくる。一本目よりも二本目、二本目よりも三本目に、より楽なボールが上がってくれば、三本目には決定的なスマッシュを打つことができるだろう。
 以上、レシーブ側のセットプレーのいくつかを記した。すべてのセットプレーに共通するのは、「サービス側の前衛がネットを取る前にしとめる」という考え方である。サービス側の前衛がネットを取ってしまえば、レシーブ側の優位は消滅する。この「相手側の前衛にプレーする機会を与えない」という考え方は、旧ルールでの「サービス&ポーチボレー」「サービス&スマッシュ」と共通する考え方である。

セットプレーを自分のものにするための練習

 セットプレーを身につけるには、そのための練習が不可欠である。
 ローボレー・ポーチは、実際にローボレーをさせて、適切なポジションから移動ボレーでポーチしに行く練習を繰り返さなければならない。そうしながら、ある範囲に散らばるローボレーに対して、素早くうまく体を使ってラケット面を合わせることを身につけなければならない。移動ボレーの練習と同じく、各コースについて行う必要がある。身のこなしを身につけるには、至近距離で向かい合ってボレー&ボレーを続ける練習も有効である。いずれにしても、初めからうまくいくはずはないので、できるようになるまで繰り返し練習すべきである。
 スマッシュもまた、練習しなくては打てるようにならない。それも、これまでの「決定打」としてのスマッシュではなく、「有効打」としてのスマッシュ、運悪く相手のロブが良ければ「持久打」としてのスマッシュ(あるいはハイボレーのようなダイレクト打法)も打てるようにしなくてはならない。それには、とにかくいろいろなロブをスマッシュすることである。たとえば、普段の乱打でも、ロブをうってきたらトップ打ちではなく前進してスマッシュで返すことに徹するのである。そうしながら、位置や余裕に応じて自分の打てるスマッシュを身につけることである。前衛なら後退しながら、後衛なら前進しながらを原則の「オールコートスマッシュ」の連続練習も、常にノーバウンドで打球を処理する習性を身につける上で有効である。

 学内の試合ではやらせで勝負する
 せっかく練習しても、試合で使えなければ何にもならない。特に、対外試合で使えなくては、単なる練習のための練習になってしまう。それには、学内の試合では、意識的にセットプレーを互いに「やらせる」ことが重要である。やらせ合い、少しでもプレーが甘くなったら、ボレーリターンを返し、さらには逆襲する。そうしながら、どんなポイント展開になっても、徹底してゲームで数をこなして、それを当たり前にする。サービス側やレシーブ側がコントロールし損ねたり、思いがけず変な方向に進んだとき、セットプレーが決まらずにリターンされたときには、通常のプレーに移行する。そうすることにより、セットプレーとセットプレーのし損ねに対するリターンの練習を徹底して行う。
 学内の試合では、相手に四ゲーム取られるまでは、意識的にセットプレーの逆を取ってまで勝ち負けにこだわることはしない。逆に四ゲームを取ったら、相手が逆を取ってくる可能性を考えて、セットプレーを使うか、使うふりをして使わないかを、一本一本戦略的に判断する。セットプレーを強く意識させておけば、他のコースへのプレーシングが著しく有効になるので、これらを併用して逆襲の材料にする。。そうすることで、まずはセットプレーの正否がゲーム前半の結果に著しく反映され、セットプレーを意識的に外すことで逆襲のきっかけにしたり、また逆襲をしのぐ手段に利用したりして、リードされても流れを変える手段を手元に残しておくような状況を作り出すのである。

 対外試合では状況に応じて使う
 対外試合では、立ち上がりは相手の実力も分からない場合が多いので、状況を見て、使わなくても楽に勝てる相手には使わない。接戦になりそうなら中盤から使って相手を潰す。逆に、特に相手の後衛が明らかに力が上の場合には、立ち上がりから徹底的に使って相手を潰しにかかる。
 相手が考え、逆を取ってきたら、はじめてこちらも考える。「セットプレーは逆を取られてから勝負が始まる」のである。とりあえずセットプレーをやめさせるために逆を取ったのか、逆を取り続けて勝つために仕掛けたのかをなるべく早く見極め、それに応じて戦略を考える。ポーチボレーだと、意識的にモーションを見せたり、動くと見せて動かなかったり、相手の意図を読んで逆をつくプレーをするなど、学内の試合では四ゲーム取られてから使い始めた作戦を、状況に応じて織りまぜて使うのである。相手に「何を仕掛けてくるか分からないのでやりにくい」と思わせたら、そこから番狂わせの目が生じるのである。

サービスゲームでのフォーメーションプレー

 正クロスは誰もが得意とするので、できることなら避けたい場合やストレート展開に持ち込みたい場合がある。そのときに使うのが硬式にあるオーストラリアン・フォーメーション(最近は「I(アイ)フォーメーション」というらしい)の変形であるe。
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 後衛は、ミドルの真ん中からクロスコーナーを狙って第一サービスを打つと、すぐ左方向に移動してストレートへの返球に備える。前衛はミドル付近から、相手が正クロスに引っ張った場合に備えて斜め右方向に移動してローボレーに備える。こうすることで、正クロスの展開を防ぎ、左ストレートの展開に持ち込むことができる(正クロスのレシーブ側の通常のセットプレーを防ぐ機能もある)。
 前衛サイドでも同様のプレーが可能である。この場合、サービス側の前衛が逆クロスへのレシーブを抑止し、レシーバーが右ストレートにシュートボールを打ってくれれば、ネットを取りに来るところでバックのローボレーをさせ、サービス側の前衛がローボレーポーチでしとめるという、サービス側のセットプレーに持ち込むこともできるf。
 競った場面でも使えるように日頃から練習しておけば、「何をする気だ」と相手に思わせるだけでも効果はある。
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 セットプレーを支えるのは素早いダッシュを可能にする脚の瞬発力と、ローボレー・ポーチでのボールに合わせた身のこなしとラケットさばきであり、これらは試合で使うことを目的として練習してはじめて身に付くものである。練習して身につけた自分たちだけのものを試合で使えれば、力だけでは互角の相手には必ず勝てるし、力では相手が上回っていても、対等以上に戦うことができる。この点にソフトテニスの真の醍醐味がある。現在のルールでレシーブキープを確実なものにし、相手にプレッシャーをかけるために、今回紹介したようなレシーブからのセットプレーを他にもどんどん工夫し、練習して、試合で使ってほしい。必ずよい結果を生むはずである。

 大学のプレーヤーはアマチュアであるが、体育会のクラブで活動するからには、それぞれがソフトテニスのトップレベルを目標とするという点では、「専門家」という意味での「プロ」意識を持ってほしい。言い換えれば、大学での専攻が何であれ、身についた体力や技術のレベルはさておき、「副専攻はソフトテニス」と胸を張って言える程度に、テニスを学び、工夫することにも時間を割いてほしいと願う。


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伊藤眞人:itomasa@t.soka.ac.jp