有機化学I第1回

<-- 2023年回答のうち誤答の正しい分類-->

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2022年の誤答の正しい分類-->

2017年の回答例  2012~2016年の回答例 2018-21年の誤答の正しい分類は、この2つにほぼ網羅されています-->

 名称だけから全てを正しく分類することは無理があります。しかし、見当をつけられるものも少なくありません。ある程度見当をつけてから、本当に正しいかどうかは、インターネットなどで調べればいいのです。ただし、中には勘違いなどで間違った情報が掲載されているサイトもあります。性格の異なる複数のサイトを参照して、裏付けを取ることが大切です(上の回答例も同様です。不審なものを見つけたら知らせて下さい)。

第1回、第2回の質問について

以下の質問は、「Q&A」に回答があります。

(質問)(化学を専門としないのに)有機化学を学ぶことの意義は何か?
(質問)イオン性物質と分子性物質の区別の仕方は?
(コメント)詳しくは、上の「過去の回答例」のページの冒頭の説明をご覧下さい。
 同様の組み合わせであっても、「酸化~」で始まる名前を持つ物質の中には、イオン性物質ではなく無機高分子に分類されるものもあります。

(質問)レシチン(リン脂質を含む脂質製品の総称)は分類できますか。
(質問)着色料はどの分類になりますか?
(質問)「無水ケイ酸」は物質名か?(無機化学命名法)
(質問)有機物の定義は?
 (コメント)Q&Aのページのほか、テキストの第1章にも説明があります。
(質問)分子性物質と高分子物質の違いは?
(質問)「有機化学I」では生物体に関する物質や反応について学ぶことはできますか。
(質問)「果糖」を「フルクトース」と呼ぶときがあるが、これはどうしてか。
(質問)有機物の名前からおおよその機能を推測することはできるか。
(質問)演習課題第2回(3)について、「元素組成から分子式を区別する」とはどういうことか。
(質問)結合の極性の有無はどのように判断すればいいのか。
(質問)形式電荷を求めることにより何がわかるのか。
(質問)オクテット則とは何か?


2-10質問 電子の非局在化でなぜエネルギー準位が低下し、なぜ安定になるのですか? Good Question!
 説明:水素分子ができるときに、電子が非局在化するのもエネルギー準位が下がるのも、原子核(水素分子では2個)と電子の間に引力(静電力)が働くためです。水素分子では、孤立した水素原子2個の場合に比べて、2個の原子核の間の空間のほうが(両方の水素原子からが働くために)、電子の位置エネルギーが小さくなりますすなわち、この空間で存在確率の高い軌道のほうがエネルギー準位が低くなります。これが結合性軌道です。この軌道に電子が入ると、電子の存在する範囲は,孤立した1個の原子核の周りに分布する場合よりも広い範囲に分布するようになります(これが非局在化)。そして、電子のもつエネルギーは低くなります(より安定になる)。
 コメント:「電子の非局在化」は電子分布(存在する範囲)の様子で,「エネルギー準位の低下」と共に起こります。一つの現象の二つの側面を記述しているのであり,両者の間に因果関係(「なぜ」そうなるか)はありません。エネルギー準位の低い軌道に電子が入れば,電子のもつエネルギーは小さくなります。一般にエネルギーの小さい状態は「安定である」というので,ここにも因果関係はありません。すなわち,ここでは「なぜ」という(因果関係を問う)質問は成立しません(答えようがない)。

3-1質問1 結合の回転が容易な分子とそうでない分子では構造がどのように違うのか? Good Question!
 (これからいろいろな事例を学びます。いろいろな分子の分子模型を作って、結合の回転を試みると、ある程度の答えが見えてくると思います。)

3-1質問2 結合の回転のしやすさは性質にどのような影響を与えるのか。
 (これから学びますが,結合の回転が起こりやすい分子は、一般に分子の形が変わりやすいです。)

3-2質問1:ひずみエネルギーの計測はどのように行われたのか。Good Question!
 回答:たとえば、生成エンタルピーの実験値を、ひずみがない分子と比較することで推算することができます。

3-2質問2:ひずみエネルギーを算出する公式はあるのか。Interesting!
 回答:推算する方法はありますが,炭素数を代入すれば答えの出る公式のようなものはありません。

5章 官能基とその性質

Q. 「非結合性軌道 nonbonding orbital」とは何か。「反結合性軌道 antibonding orbital」とはどう違うか。
(ヒント)Q&Aのページに解答が掲載されています。

質問:命名法の表3の接頭語にしかなれない官能基には、なぜ優先順位がないのですか?  Good Question!
A:名前を付ける際に優先順位をつける必要がないからです。規則では、接頭語にしかなれない置換基は、名前を付けるときに基名のアルファベット順に並べるためです。

質問:σMOへの寄与が大きいとはどういうことか。(内容は物理化学)
A: σMOはAOを組み合わせて作られる(2章〜3章)。組み合わせるときに,σMOとのエネルギー差の小さいAOのほうが,σMOの電子雲の形に大きく影響を与えるので「寄与が大きい」という。πMOでも同じ。

質問:可能な水素結合の数を化学式から判断することはできますか。また、判断するのに必要なものはありますか。  Good Question!
A: 分子式では判断できません。構造式なら判断できます。
 水素結合の供与体(D)であるHの数と受容体(A)である非共有電子対の数が必要です。

質問 授業資料中の図.炭素数および水素結合と沸点のRHが、炭素数1~5の範囲で他と比べて沸点の上がり方が急なのはなぜか。Good point!
 A: 気体分子運動論(高校物理・化学)によると,同じ温度では分子の平均運動速度(vav)は分子の質量(m)の1/2乗に反比例します(vav ∝ √(1/m) = m-0.5)。分子質量(m)は概ね炭素数と共に直線的に大きくなります。一方,直鎖の炭化水素基では,分子間力は炭素数と共にほぼ直線的に大きくなります。これらのことが沸点に影響を与えている可能性があります。炭化水素(RH)以外の場合には、官能基の存在により分子間力が大きくなるために、炭素数の違いによる上のような効果が緩和され、炭素数に対する沸点の変化が小さくなると考えられます。

質問 水以外の溶液中やイオン液体の中の酸解離定数も同じ定義ですか。Important!
 回答:同じです(大きさは異なる)。化学Aで学んだように,Brφnsted(ブレンステッド)の酸・塩基の考え方は,水以外の溶媒中でも成り立ちます。

質問 構造異性体の書き方のコツはありますか? Good Question!
 A: 飽和炭化水素を例として記します。まず炭素数から考えられる母核(命名法のときと同じ。直鎖・環)の種類をできるだけ見つけます。そして,各母核について,側鎖(枝分かれ)の位置と種類が異なる構造をできるだけ描きます。最後に,同じ構造が重複していないか検討します。迷ったときは,命名法規則に従って命名します。同じ名前になるものは(当然)同じ構造です(BIOVIA Drawで描いていると容易にチェックできます)。有機化学のページのQ&Aの「結合と構造」(6)もご覧下さい。

Q.次の質問への回答はQ&Aのページに掲載されています。

(Q) 問13(1) に関連して、C4H6の異性体の一つ、のIUPAC名を教えて下さい。

(Q) カルボン酸のカルボンはどういう意味か?


質問への回答
Q. 配座異性体間の変化(結合の回転、シクロヘキサンの環反転など)を起こすためのエネルギーはどこから得られるのか。
A. 良い質問です。結合の回転が起こるためには、十分な運動エネルギーが分子の一部に与えられる必要があります。これにはいくつかの可能性が考えられます。
 一つは、分子のもつ内部エネルギーからです。これは分子内のいろいろな運動エネルギーの総和であり、エネルギーは相互変換できますので、時間と共に運動の様子は変わっています。
 もう一つは、外部から分子に与えられるエネルギーです。たとえば、他の分子との衝突により得られるエネルギーが考えられます。液体中や気体中では、分子はたえず他の分子と衝突しており、そのたびに互いにエネルギーをやり取りして、各分子のもつ内部エネルギーは変化しています。
(以下は「物理化学」の内容)
 分子のもつ運動には、並進運動(いわゆる分子運動)および分子全体としての回転運動のように分子の形の変化を伴わない運動と、分子内の各結合の振動(伸縮・変角)・回転およびシクロヘキサンのイス形の環反転や窒素の非共有電子対の反転のように分子の形の変化を伴う運動とがあります。単原子分子では並進運動だけを考えれば良いですが、原子数が増えて分子の構造が複雑になるにつれて、多種多様な運動が同時に起こっています。


 1-ethyl-2-methylcyclohexane などでも事情は同じ。

 しかし、cis-1,2-dimethylcyclohexane では事情が異なる。